佐木隆三『私が出会った殺人者たち』新潮文庫

最近話題になっている京都青酸カリ殺人、報道される筧千佐子容疑者の素描は、あの木嶋佳苗がお嬢さん芸に見えてくるようなすごみを感じさせるものだが、ここで似て非なる「中洲美人ママ連続夫殺し」という事件も思い出しておきたい。
佐木隆三『私が出会った殺人者たち』(新潮文庫)で読めます。

わたしが出会った殺人者たち (新潮文庫)

わたしが出会った殺人者たち (新潮文庫)

高橋裕子は少女のころから「白雪姫」とあだ名されるほどの美貌で、東京の音大に進学しピアノを学び、東京で知り合った東北の良家の青年と結婚。しかし東北の嫁ぎ先になじめず自分の生家のある九州で子育てしたくなり、熱烈に美貌の妻を愛していた夫は妻の生地に職場を見つけて希望をかなえてくれた。だが、今度は夫が慣れない土地でストレスを溜め飲み歩くようになる。夫との関係に悩む美貌の人妻、そんなとき娘の家庭教師に来ていた大学生に「好きです」と告白され、……。
と、まるで、映画か小説のような現実が展開していて、殺人事件の小道具のひとつに『完全自殺マニュアル』が出てくるところが当時の風俗を感じさせる。
夫の死後、スナックを開いたが、そこでも彼女の美貌に引かれて客が集まっていたそうで、その中からまた被害者が出ており、「美貌の女が男を引き寄せて事件を起こす」という、へんないいかただが犯罪実話としては通俗的にわかりやすい物語になっている。
最高裁無期懲役が確定したとのことで、佐木隆三は近年の「無期囚の終身刑化」にも触れている。なぜか無期懲役はすぐ出てくるという俗説がひろがっているが、実態はまったくちがっているのだ。そのへんも読みどころです。
佐木隆三の犯罪実話は取材と調査に基づき、裁判の傍聴もふまえて記された名品揃いだ。ぜひ、お読みになってください。

『わたしが出会った殺人者たち』に取り上げられた殺人者

  1. 復讐するは我にあり』の西口彰
  2. 『曠野へ 死刑囚の手記から』の川辺敏幸
  3. 千葉大女医殺人事件』の藤田正
  4. 『悪女の涙 逃亡十五年』の福田和子
  5. 『連続幼女誘拐殺人事件』の宮粼勤
  6. 『別府三億円保険金殺人事件』の荒木虎美
  7. 『身分帳』の山川一こと田村明義
  8. 『一〇八号――連続射殺事件』の永山則夫
  9. 和歌山毒カレー事件』の林真須美
  10. オウム真理教事件』の麻原彰晃こと松本智津夫
  11. 『トビ職仲間と五人殺し』の木村繁治
  12. 『黒い満月の前夜に』の尊・卑属(尊属殺人についての話です)
  13. 『中洲美人ママ連続夫殺し』の高橋裕子
  14. 『奈良女児誘拐殺人事件』の小林薫
  15. 『深川通り魔殺人事件』の川俣軍司
  16. 『大阪池田小大量殺人事件』の宅間守
  17. 下関駅通り魔殺人事件』の上部康明
  18. 『偉大なる祖国アメリカ』の安田幸行