ブラッド・ワーク

DVDで鑑賞。
心臓病で引退した元FBI捜査官が連続殺人鬼を追う。
クリント・イーストウッド扮する老いたFBI捜査官マッケレイブが、殺人事件の現場で見つけた不審な男を追いかける途中、心臓発作を起こして倒れるところからはじまる。
心臓移植によって生命をとりとめ、引退してボートで静かに余生を過ごすつもりでいたマッケレイブの元に、一人の女性がたずねてくる。妹を殺した犯人を逮捕するのに力を貸して欲しいと言う。最初はことわるマッケレイブだが、彼に移植された心臓は、その女性の殺された妹のものだった。体調を心配する医者には止められるが、マッケレイブは自分の命を助けてくれることになった被害者のことを思い、犯人をつきとめようと動き始める。
クリント・イーストウッドの映画なので、安心して楽しめる作品に仕上がっている。印象的なのは、音。音楽は流れず、背景から聞こえてくる自然音が臨場感を高め、場面の印象が深まっている。風の音、波の音、鳥の声、車が道路を通過していく音。
臓器移植が主人公が動き出すきっかけになっていることもあり、臓器移植について考えさせられるドラマにもなっている。私は、臓器移植は、誰しも臓器は天から授かったものひとつだけという最後の平等を突き崩す恐れがあると考えてしまう。しかし、自分が現在臓器移植を必要としておらず、また家族にも必要としている者がいないので、あまり悩むことなくこう言えてしまうんだろうな、とも思う。
この映画自体は、イーストウッドらしく、過去の作品から学んだ技法で謎の犯人を追いつめていくドラマが楽しめる作品になっている。そしてアメリカ映画らしく、生きることに前向きだ。それも、いかにもアメリカらしく、端的に前向き。ただし主人公は、自分が心臓を移植されて生き延びたのは、臓器を提供してくれた人が死んだおかげだということを意識しないわけにはいかない。その思いと共に、犯人を追っていく。主人公を演じる老いたイーストウッドのこだわりが、作品に陰影をもたらしている。