白いカラス

DVDで鑑賞。
大学を追われた老教授が、貧しい女と恋に落ちる。
1998年、モラルが重視され、差別発言が問題になる機会が増えたアメリカ。大学で学部長を務めるコールマン・シルク教授(アンソニー・ホプキンス)は授業中に、自分の授業にまったく出てこない二人の学生を皮肉って「スプーク」と呼んだ。教授は言葉の意味通り姿を現さない二人を「幽霊」にたとえたのだったが、「スプーク」は、黒人に対する差別語としても使われることのある言葉だった。欠席常習者だった二人は偶然にもアフリカ系だったため、教授は差別発言をしたと咎められ、差別的意図はなかったとゆずらないコールマンは辞職に追い込まれる。勇退間近だった夫の突然の失脚にショックをうけた妻は血栓で急死。コールマンは一人で隠遁生活を送るようになる。
一人暮らしとなったコールマンは、近くに住むやはり一人暮らしの作家と友だちづきあいをするようになる。ある日、コールマンはその作家に、自分は今、恋をしているんだ、おそらくこれが最後の恋だろう、と打ち明ける。
コールマンの恋の相手は、独り身で町の雑役をこなして生計を立てるフォーニア・ファーリー(ニコール・キッドマン)だった。彼女は裕福な家の出身だが、義父に性的虐待を受けて14歳で家出、結婚したものの夫にも暴力をふるわれ、子供を火事で失い、いまも追いかけてくる夫の影におびえながら一人で暮らしている。
フォーニアはコールマンを誘うが、なかなか心を開こうとしない。コールマンはフォーニアとつきあうようになってから、若かった頃のことを思い出すことが増える。彼もまた、フォーニアと同様、過去に傷つけられていたのだった。……
冒頭、雪景色の中を走る一台の車、運転している老いた男と彼にもたれて眠っているまだ若い女。しかし、突然車は進路をそれて道から転落、横転し、乗っていた二人の死を予感させる。不自然な事故。何が起こったのか。このあとは、ここに至るまでの経緯を解き明かすように、ミステリー仕立てで話が進んでいく。
教授が一人暮らしをはじめるきっかけとなる人種差別発言だが、1998年頃の風潮のばかばかしい側面を批判的に描いている。しかしそれだけではなく、人種差別は物語全体を貫く重い問題ともなっている。邦題の「白いカラス」は作品のテーマをよく表しているといえる。
ただし、正直いって映画としての魅力は乏しい。出演者は皆うまいし、おはなしもなかなかよく出来ているのだが、やたら人の顔のアップが多く、まるでNHKが作ったテレビドラマを観ているようで、それにしては場面が映画的に濃い印象を与えるせいもあって、時間は104分とそんなに長くないのだが、妙に長く感じられた。たぶんこれは、原作小説を読んだ方がおもしろいのだろう、というのが感想。でも、この映画を観た後では原作を読んでみようかという気が起こらない。この映画を一回観たら十分かなという疲労感が残りました。
同じ脚本で、クリント・イーストウッドが監督してくれたら、もっと映画として楽しめるものになったんじゃないかなと妄想する。