ミルク

DVDで鑑賞。
同性愛者であることを公表して公職に就いたアメリカ初の政治家ハーヴェイ・ミルクの最晩年8年間を描く。
恋人といっしょに新しい人生を始めるためニューヨークからサンフランシスコへ移り住んだミルクは、カメラ店を開店。そこはミルクを慕う同性愛者たちが集まる場所となる。自身も同性愛者だというだけで差別に悩まされてきたミルクは、1970年代のアメリカの空気に押されるように、同性愛者たちの人権を世間に認めさせようと政治運動をするようになっていく。しかし、同性愛者の自己主張が強くなるにつれて、保守的な人たちからの反発も大きくなっていった。
ミルクを演じるのはショーン・ペン。私にとってショーン・ペンとは、ふつうにしてるのになぜか正面から見ると口をへの字に曲げているように見える顔をした人という印象が強い役者だったのだが、この作品では口がへの字になることなく、いつも、特に人前では愛想がよさそうな印象を与える常に笑顔気味の表情を見せるミルクを見事に演じて見せてくれる。姿勢や身のこなしといい、ゲイだという人にはたしかにああいうかんじの人がいるなと観ていて思った。
だけど、こういう感想、ゲイからすればヘテロの偏見になるのかもしれないね。「いかにもゲイっぽいとは、なんだよそれ」とか言われたら、もう私は偏見持ってるんですと認めるしかないだろう。
この映画では、1970年代のサンフランシスコの雰囲気、ミルクの政治運動の様子を、1970年代当時のフィルムの質感を再現した映像をニュース映像風に差し挟んで見せることで、臨場感ある実録物として描き出している。
ゲイ特有の文化、表現、スタイル、というのはある。少なくとも私はこの映画に出てくるゲイのパレードや集まって楽しんでいる場面を見てそう感じたし、それは独特のテイストがあっておもしろいのだけれども、テイストということになると、人によって好き嫌いが分かれるというのは免れない。ゲイを差別しようとする人は、ああいうテイストが嫌いだから、というのもありそうなんだよね。ゲイだけが集まってると、ヘテロからすると物凄く排他的な集団に見えてしまう、というのもあるかも。
でも、常に多数派へテロから抑圧され疎外され、しかも多数派側には抑圧してる自覚すらない、そんな状況下で苦しめられてきたゲイにしてみれば、とにかくまず自分たちがここにいることを認めろ、になるだろうし、まして職場で同性愛を理由に差別されたり、同性愛者だからというだけで暴力ふるわれたりなんていうのはあきらかにおかしいのだから、ミルクの政治運動は大きな意義あるものだったのだ。
ただ、アメリカの場合、熱心なキリスト教徒の数が多いそうで、キリスト教に背く行為だから同性愛を否定するという言い方がされることがある。キリスト教徒が少数派でしかない日本ではちょっと考えられないことだけれども、異国の情景として眺めているだけでも重いものがあることを感じてしまう。
人前では明るく振る舞っているミルクだが、その影では遺言をテープに吹き込んでいた。自分に反発する勢力の大きさを実感していたのだろう。繊細さが彼の行動力を支えていたのか。
ミルクを射殺するダン・ホワイトを、ジョシュ・ブローリンが演じている。生まじめだが余裕のないかんじ、射殺にいたるまでの静かだがバランスを失いつつある男が実在感ある姿で動く。うまい。ジョシュ・ブローリン、『ノーカントリー』の田舎のおっさんもよかったが、未見だけど『ブッシュ』ではジョージ・W・ブッシュを演じているそうで、さぞやチャーミングだろうと想像。ジョシュ・ブローリンをもっと観たいですね。