リンカーン

アメリカ第16代大統領エイブラハム・リンカーン奴隷制度廃止のために合衆国憲法修正第13条を下院で通す。
南北戦争も4年目に入り、戦争を終結させてくれという声がリンカーン大統領にも届き始めた。しかし、リンカーン奴隷制度完全廃止を実現するために、下院で憲法修正案を通すことを優先する。それができないと戦争は永遠に終わらないとまで言って。下院で賛成票を勝ち取るための暗闘がはじまる。……
映画開始前にスピルバーグが登場、日本人観客のためにこの映画の時代背景を説明してくれる。南北戦争奴隷制連邦政府と各州の関係など、この映画を観ると大づかみでアメリカの歴史をとらえられるので、その先を勉強するとっかかりにもなる作品になっている。
冒頭、南北戦争の戦地の光景から始まるのだが、これが日本映画で出てくる戦国時代の場面みたいで、こういうところにクロサワの影響が出ているのかと想像。最初は兵士と話す声だけで、やがて顔が映るリンカーンは、学校の教科書に載っていた肖像画を思い出させるのだが、メイクもあるのだろうけれども演じたダニエル・デイ=ルイスがもともと顔の輪郭や鼻の形状が似ているのが大きいかな、非常によく似ているけれどもそっくりさん大会みたいにはならないですんでいた。芝居が抜群にうまいということもあるでしょう。
議会内のやりとりと、その外での駆け引きや工作、根回しが描かれ、票集めのため走り回るロビイスト三人がコメディーリリーフの役割を果たしていた。議会が闘技場のようで、そこが見せ場になるのだが、基本台詞劇、しかしカメラの動きや場面の流れによどみがなく、さすがはスピルバーグ、これは映画だとしかいいようのない臨場感を与えてくれる。政治の世界で事を実現させるのはほんとうに大変ですね。言わずもがなのことですが、映画観てて実感しちゃいましたよ。
リンカーンの家庭内も描かれており、子供が死んだ後、奥さんが嘆き悲しみちょっとした波乱があったことがうかがわれるが、夫妻のやりとりからは奥さんがそこまでやってくれるから夫は彼女を見守る役になれて冷静を保てていたのかなあとも想像でき、夫婦間の補完的関係などということも考えさせられた。奥さん役のサリー・フィールドが名演です。
ひとつ大仕事を終えた後、任期が済んだら旅行でもしようかという話もしている夫妻。しかし、その夢はリンカーンの暗殺で立ち消えになります。当時としては急進的な政策をとり、国民にはたいへんな人気があったということはストーカー的な劣情も引き寄せやすかったであろうリンカーン。あの印象に残る肖像画がこの大統領の核をよく表しているのかもしれないと映画を観終わってあらためて思いました。
不謹慎かもしれないけれども、リンカーンケネディはいかにも暗殺されそうな顔の大統領だったと私は思ってます。二人ともイメージとしては群を抜いて魅力的なんですけどね。