村上龍「オールド・テロリスト」第二十五回 文藝春秋2013年7月号

次に何が起こるのかわからないまま、待機状態が続き、関口は疲れ果てていた。マツノ君の様子が目に見えておかしくなってきたが、どうしてやることもできない。そんな中で、これまでマツノ君を決して名前で呼ぶことがなかったカツラギさんが、「あなた、ねえ、マツノさん」と、マツノ君に声をかけた。……
今回はダレ場とでもいいますか、することもなく待ち続ける中で、関口とマツノ君は自分のことばかり考えてどんよりしてしまい、しかしそんな中で平常運転を続けるカツラギさんが、なんとか二人を支える、そういう情景が描かれていました。カツラギさんも別に活力があるとかそういう人ではないのですが、不安な状態に馴れているので、日常生活面が普段通りで安定しているのですね。そういう人がいることで救われる場合もあるということですね。
カツラギさんは変調したマツノ君の語ることをそのまま聞いて受け入れます。読んでいて、新興宗教の教祖とか、カウンセラーとか、AV女優に異常なまでに信頼されてしまう一部のAV監督とか、今回のカツラギさんのように相手の話を聞いてあげているのかなあと想像してしまいました。カツラギさんは、根底では冷静で判断力がまともなので相手に余計な害を与えるようなことは言いませんのでね、読んでいるとマツノ君といっしょにこちらも救われたような気分になりましたね。
さて、次回はいよいよミツイシが関口の前に姿を現すようですね。楽しみです!