笙野頼子『未闘病記』講談社

ある夜、寝返りも打てないほどの激痛に全身を襲われ、病院で検査を受けた著者は混合性結合組織病と診断された。膠原病の一種で症状の出方は人それぞれ異なり、本書執筆時点での著者は軽症だが、薬を飲み症状を抑えながら様子を見ていくしかない難病。
自分が難病であることを知らされたことで、著者は前とはちがったものごとの見方ができるようになり、療養を通して日常生活にも変化が生じる。
そうして著者はこれまでの笙野頼子の活動をふりかえる。難病と闘うことで得た新しい観点から語られるメイキング・オヴ・笙野頼子
この本だけでももちろんOKですが、これまでの笙野作品のファンにはさらに楽しめる、味わい深い一品となっています。
私は笙野頼子の本を読むとき、読み始めるとどこからか伸びてきた大きな力強い腕に自分がすっと抱き上げられ、ページをめくるごとにあらわれる様々な情景や聞こえてくる音楽を楽しみながら、ところどころに自分が日頃感じながらもうまく言葉にできないもどかしさを覚える事象の核心が篆刻として白い紙にくっきりと押し印されているのを発見しつつ、すーっと出口まで運ばれていく、そんな体験をする。
読書することでエネルギーがもらえ、言葉が、文章が、日本語が読めることが自分の持つ力のひとつであることを実感できる。
そして、読んだ後、自分のことをふり返り、本の中での出来事と照らし合わせていろいろなことを思う。これまで知らなかった気づきを得る。
私にとっては、小説を読むよろこびを最も明確に教えてくれる作家が笙野頼子なのです。
今年、いちばん読めてうれしかった本でした。