湊かなえ『カケラ』

 

カケラ

カケラ

  • 作者:湊 かなえ
  • 発売日: 2020/05/14
  • メディア: ペーパーバック
 

 帯には「“美容整形”をテーマに、容姿をめぐる固定観念をあぶりだす心理ミステリ長編!」、さらに内容紹介を引用すると

あの子、

大量

ドーナツ

まれて

んで

いたらしいよ 

美容クリニックに勤める

医師の久乃は、

ある日、故郷の同級生・

八重子の娘が

亡くなったことを知る。

母の作るドーナツが

大好物で、性格の明るい

人気者だったという少女に

何が起きたのか――。

その通りの内容です。ミステリなので、あらすじなどは書けませんが、どこにでもいそうな普通の人々の抱える葛藤が自然に描かれていて、作者の登場人物に向ける視線があたたかい、というと言い過ぎになるかもしれないかな、公平、というか、まずこの人はこういう人なんだなと存在を認めるところがあるので、過剰にどろどろすることなく、でもそれだけに、物語世界の人物にとどまらず日常生活の中にいそうな現実感を帯びて描かれている。湊かなえは「イヤミスの女王」と呼ばれていますが、それはこのあたりのうまさに対しての敬称でしょうね。

 女性、とくに若い人たちが、自分の容姿を気にするのはおかしいことじゃない、そういうことで悩むのは変なことじゃないよ、と、まず認めてあげた上で話が進んでいくのがよいと思いました(現実にはそれすら否定され人柱みたいな役回りを押し付けられる人もいるので……)。この小説世界の登場人物もいろいろ悩んだりもしながら普通に生活していっている、まともな人たちなんですよ。でも、何か言えないこと言わないこと見えないこと見ないことは人間関係に絡んできて、その隙間に自殺した子が落ちてしまったってことになるのかなあって。

 この物語では、自殺した子が、最後の最後で人柱になったってことになるのかもしれません。

 小説全体の読後感は、いろいろ考えさせられたけど、まずはともかく明るく前向きに行こう、なにかあったらまたそのときで、という気分になれましたが、やはりドーナツが大好物だった自殺した子のことがひっかかるのですね。そのことも含めて、おもしろかったです、読んでよかった。