『世界』2022年7月号 日下渉「「独裁ノスタルジア」の反乱 ー フィリピン2022年大統領選挙」

 

5月9日のフィリピン大統領選挙で、あのマルコスの長男ボンボンが圧勝、マスコミはソーシャルメディアの偽情報に大衆が踊らされた結果だと見なした。しかし、それだけでは片づけられない有権者の気持ちがあったという。なぜ、大勢の人たちがフィリピンの民主政治に失望していたのか?

 本稿では、ソーシャルメディアで「ピープル・パワーの物語」をエリートの偽善と断定し、開発独裁の夢を幻視する「マルコス黄金期の物語」が広く受け入れられたことに着目する。そして、経済成長のもとで台頭した下位中間層が、不安定でストレスに満ちた新自由主義下の労働に従事するなかで、この物語の転換に積極的に関与したと論じたい。
(引用元:『世界』2022年7月号 no.959, p19)

 

 ネット上では「荒らし会社」が暗躍し、自らもYouTubeTikTokを活用して支持を拡げたボンボン。若い世代だともうマルコスの記憶はないかもしれないし、世代に関係なくボンボンを支持した人々には、そうしよう! となる彼らなりの理由や事情があった、と。
 くわしくは『世界』7月号で読んでください。

 「トランプ現象」に似たことが世界各地で起きてるってことになるのかな? 日本だと先に「小泉ブーム」がありましたけどね。
 
 ボンボンの大衆人気を苦々しく受け止めているのは、ミドルクラス以上のリベラルエリートになる模様ですが、インテリ階層といってもいいのかな、彼らをミドルクラスとすれば、その上と下は彼らから仲間外扱いされバカにされるという点では同類になってしまうんですよね。たぶんぴんとの外れたこといろいろ言われるんで、言ってることが信用できない、とか、感じることもよくありそうでね......

 

 労働者のことをまじめに考えて意見してる人もいるわけですが、そうかんたんに伝わらないってことになるか。

 

 『世界』では、2022年3月号まで「ネグロスからの手紙」が連載されていて、筆者クラリッサ・シングソンは人権活動を続けていたために政府から弾圧され、命の危険にさらされるようになり、家族と共にドイツへ移住することを余儀なくされたそうです。ドイツからの最後の手紙では、マルコスの息子とドゥテルテの娘が民衆の味方のようにふるまって民衆を利用しようとしていると批判していました。

 編集後記では、『世界』で「ネグロスからの手紙」を連載したのは、フィリピンでの農民運動弾圧の背景に日本の商社の存在があるからだそうです。「テロ対策」と称して人権のために運動している人たちが殺されてしまう事件も世界各地で起きていますよね。「テロとの戦い」はブッシュ政権が発明したのかな? テロリスト認定されると、戦時ルールも守らなくてよくて何やってもいい対象にされてしまうんですよね。

 

「ネグロスからの手紙」も『世界』で読んでみてください。