『世界』2023年5月号 宮城大蔵「失われたバランス 現代日本外交「三つの路線」をめぐって」

 

 小泉政権を起点とする第一次安倍政権以降の対外関係を概観し、これからの日本外交がどうあるべきかを探る。
 従来自民党保守本流の指導者には日中友好は「裏安保」だとする考えがあった。しかし小泉政権下での竹下派潰しによってそれまであった中国との太いパイプは失われた。その後の日中間のパワーバランスの変化もあって日中双方共に疑心暗鬼に陥りやすい状況になってしまっている。
 くわしくは『世界』5月号を読んでもらうとして、ここでは宮澤喜一のことばをメモしておく。

 戦後初期以来の長い政治的履歴を持ち、政界随一の知性派と目された宮澤は、筆者も同席したインタビュー(2001年)で、中国は仮に共産主義体制ではなくなったとしても、排他的で多元的な社会にはならず、政策決定面で透明性のある国にはならないだろうから、「やはり畏怖の対象となる国だと思います」とした上で、次のように語った。
「(日米同盟を基盤としつつ、中国と)何かこう緩やかな形でもいいですから、少しずつ毎日の接触があるような関係が育っていけば、その限りにおいて安心感がもてるようになると思います。それができなければ、日本国民は敏感に反応しますから、核保有だなどと激発してしまう心配があります。それはアメリカの意に反してやることではないでしょうが、隣国が不安な国だということになると、日本国民は敏感に反応せざるを得ないでしょう」
「その限りにおいて安心感がもてる」という言葉が重く響くが、要は意思疎通と信頼醸成ということだろう。それを欠いた場合、日本国民の不安は容易に核保有などに向かいかねないという宮澤の警句だが、そのような日本はアメリカにとっても厄介な存在となるだろう。
(引用元:『世界』2023年5月号 p.134 )