『世界』2023年9月号 中村隆之「ブラック・ミュージックの魂を求めて 第2回 語られてこなかった過去を想像する」

 

今回は大西洋奴隷貿易について。『黒人霊歌とブルース』の著者ジェイムズ・コーンは「黒人以外の人間が、黒人の背負ってきた苦しみや痛みを理解するのは難しい」と考えているそうですが、その根幹にあるのが大西洋奴隷貿易でしょう。
 まず西アフリカに、戦争の敗者や債務者を奴隷の身分に置く社会があり、そこにイスラーム法での奴隷の扱いが影響を与えます。そして、15世紀からポルトガルが西アフリカの王国を相手に奴隷取引を始め、西アフリカの王国は奴隷貿易によって火薬を得て軍事強化を行い、戦争捕虜を奴隷として売る、という流れができます。
 奴隷船で運ばれる強制連行されていく人たちの中には、病死、自殺、反乱を起こして殺害されるなど、航海中に命を落とす者が多く出ました。彼らの遺体は海に捨てられていきました。彼らの無念を目の当たりにしながら生き延びた人たちによって、新大陸にアフリカ系文化が伝えられえていったのです。
 ここで、アフリカ文化が口頭伝承を柱とする音重視の文化だったことは、強制移住させられた土地にアフリカ文化の粋が伝えられていく際の強みになったと思われます。
 くわしくは『世界』9月号で読んでみてください。

 

 さて、奴隷船の様子は、白人が書き残した史料はありますが、奴隷として連行された人々はまず文書による記録は残していません。想像力が必要になるのはそのためです。(これは奴隷貿易に限らないですよね)
 著者は、奴隷制を想像するにあたって有力なのは映像作品、たとえば、テレビドラマ「ルーツ」を例に挙げています。これは日本でも話題になりましたね。淀川長治先生があの名調子で解説していたのを思い出します。淀川長治は洋画を観る楽しみを日本中の人に伝えた映画の伝道師でした。