重信メイ『「アラブの春」の正体』角川oneテーマ21

「欧米とメディアに踊らされた民主化革命」という副題が付いた本書。「はじめに」より著者からの言葉紹介。

アラブ社会は、外から見てわかりづらい一面があることもたしかですが、欧米の思惑がメディアの報道にも影響を及ぼしている部分が大きいのです。日本のメディアも、欧米のメディアの意図をくんで報道していると感じます。
アラブの国々に暮らす普通の人々のことを知ってほしい。声を聞いてほしい。アラブで起こっていることを自分たちとは無関係のことだと思ってほしくないのです。
(中略)
宗教が違うから、政治体制が違うから、文化が違うから――と違いが強調されがちなアラブですが、そこで起こっていることはわかりづらくも何ともない、人間の普遍的な問題です。
(引用元:重信メイ『「アラブの春」の正体』角川書店 p.4-5)

目次紹介

  1. 北アフリカの小国、チェニジアから始まった「アラブの春
  2. アラブの盟主、エジプトで起こった「革命」の苦い現実
  3. メディアによってねつ造された「アラブの春」〜リビア内戦
  4. アラビア半島へ飛び火した「アラブの春
  5. 報じられなかった革命、違う用語にすり替えられた革命
  6. メディアが伝えないシリアで内戦が激化する本当の事情

アラブの春から現在へ至る中東の様子が語り口調でわかりやすく解説された本です。
失業した一人の青年の焼身自殺からはじまった、社会変革を求める人々のデモがSNSを通じて広がり、マスメディアで大きく取り上げられ、しかしそこから政治的に利用しようとする国内外からの動きを呼び込むことにもなり、当初変革を求めて立ち上がった人々の期待とは異なった展開を見せる場合も出てきた。しかし、アラブの春に刺激されるように先進国でも「オキュパイ・ムーブメント」が起きたりもした。21世紀を先駆けた出来事だったのかもしれない、アラブの春
アラブ諸国に対しては、日本人も先入観からくる色眼鏡で勝手にわかってすませてしまいがちですよね。それならまだ自分はよく知らないと自覚するほうがマシでしょうし、この本を読むと、社会体制にはいろいろ不満を感じるけれども、その中で市民としてちゃんと生活していきたい人々の考えることやふるまいは、日本人にも共感しやすいものだとわかります。社会を変えたいという気持ちはあるけれども、それをほんとうにしたいのならアウトローになってはだめなのでは、とか。あと、しがらみや風習というのは、日本だけでなく欧米にだってあるでしょうし。
欧米のマスメディアで偏見を持って語られやすいという点では、日本はアラブ諸国と似ていると思ったりもしました。欧米人は東洋というとエロ妄想が脳内で即湧くみたいね、と、私はそういう色眼鏡日本記事を見る度に欧米に対して偏見が湧いてしまうのですが。東洋=男尊女卑というのも、欧米的なエロ妄想のひとつなんじゃないかしらね?
この本では、アラブの春に関して、アルジャジーラや、ツイッターフェイスブックが及ぼした影響について注意深く指摘されていました。よい面もあれば、悪い面もあった。これも、インターネットが普及した現在、アラブの春に限らずどんな現象にもついてまわることだと予測できます。くわしくは本書をお読みください。
中東情勢ににわかに興味を持ちニュースを見るようになった人にお薦め。