『世界』2023年11月号 上江洲佐代子「再編に向かうアフリカ安全保障体制 ロシア/ワグネル報道に欠けているもの」

 

ワグネルのプリゴジンがこれからは活動拠点をアフリカに置くと発言し、日本でもアフリカでのクーデターや紛争はワグネル絡みで報道されることが増えました。ワグネルがアフリカに進出しているのは事実ですが、アフリカでの政変や紛争はそれだけが理由ではありません。

 ニジェールでクーデターが起き、仏語圏アフリカでクーデター、反仏感情→ロシア/ワグネルと、図式化されて語られがちなアフリカの、その背景を解説してくれています。

 マリ、ブルキナファソニジェールは「サヘル諸国同盟」を結成、西アフリカの地域機関ECOWASを共同の敵とみなし、集団で領土防衛にあたる方針を明らかにした。欧米やロシア、中国に加えて、トルコや湾岸諸国などのミドル・パワー、ルワンダ軍の台頭、治安の空白に乗じて広がるISやアルカイダ系のテロ組織、そしてテロ対策と称して国軍が対立部族を襲撃する逸脱行動。アフリカに昔から続く傭兵の活動、治安の安定を求める市民と軍事政権下でもガバナンスに関する調査を続け提言するアフリカ人研究者、かれらとつながろうとするフランスなどの研究者たち、など。

 くわしくは、『世界』11月号で読んでみてください。

 メディアに対する要望を書いた箇所を引用しておきます。

 最後に、メディアの役割について述べる。これまでのところ、メディアは反仏デモの群衆の中にロシアの旗を見つけて(他に北朝鮮などの旗もあるが、それは無視され)、ロシアの影響力を報じることを優先している。それはまるで、イスラム国のシンパが黒い旗を掲げる姿を見つけ、「ここにもイスラム国の脅威が」と煽るかつての報道の再来のようでもある。

 九月現在、マリ北部のトンブクトゥは、軍事拠点奪還を目指すマリ軍/ワグネルと、彼らを地域に入れまいとトンブクトゥ周辺を封鎖し軍への補給を断とうとするテロ組織/武装集団との衝突が激化し、住民の多くは逃げるか、襲撃の犠牲者ともなっている。ニジェールでは、元過激派戦闘員の社会統合プログラムの中断により、過激派に戻ることを余儀なくされる人々が出てくるであろう。このように取り残され疎外された住民の窮状、またその中から、やむなくテロ組織や犯罪行為に投じていく層がいることも、メディアはあわせて報じてほしい。

(引用元):『世界』2023 November no.975 p.130)

 

また、アフリカ関連では「特にアフリカで政治への参加率が驚くほど高まったり、汚職が減るなど、改善の動きも芽生えているとIDEAは指摘した。」という一説がある次の記事もメモしておきます。

jp.reuters.com

世界各国の半分で民主主義が後退=政府間組織IDEA
ロイター編集
2023年11月2日午後 1:29 GMT+92日前更新

 

[ストックホルム 2日 ロイター] - 世界の国々の半数が、選挙の欠陥や表現・集会の自由の抑制など、民主主義の後退に見舞われている――。スウェーデンに本拠を置く政府間組織、「民主主義・選挙支援国際研究所(IDEA)」は2日公表した年次報告書でこう指摘した。

報告書によると、民主主義の度合いが低下した国の数が、向上した国の数を6年連続で上回った。こうした状態がこれほど長期間続くのは、1975年の調査開始以来で初めて。

IDEAのケビン・カサス・ザモラ事務総長は報告書で「要するに、民主主義は依然として困難に見舞われており、良く言っても停滞中、多くの地域では後退している」と総括した。

IDEAは、選挙、議会、独立した裁判所など、民主主義の「ガードレール」がほころび、法の支配を守るのに支障を来し、政治家の責任が問われているとした。

こうした民主主義の後退は、インフレによる生計費危機、気候変動、ロシアによるウクライナ侵攻が、多くの政治家に試練をもたらしたことと結びつけて考える必要があると指摘した。

一方、ザモラ氏は、「ジャーナリストから選挙組織、腐敗撲滅当局に至るまで、非公式のチェック・アンド・バランス機能が、独裁や大衆迎合主義といった傾向との闘いに成功することへの期待がある」とも述べている。

報告書によると、世界で最も民主主義が良く機能している地域は引き続き欧州だが、オーストリアハンガリールクセンブルク、オランダ、ポーランドポルトガル、英国など、民主主義が確立した多くの国で、民主主義の機能度合いを示す特定の指標が大きく悪化している。

米州では、大半の国々が選挙の信頼性を保っているが、エルサルバドルグアテマラは足元で民主主義が急激に後退している。

ただ、特にアフリカで政治への参加率が驚くほど高まったり、汚職が減るなど、改善の動きも芽生えているとIDEAは指摘した。