共謀罪の矛盾 日本の刑法体系を覆す恐れ

本日の四国新聞では一面で共謀罪成立断念と伝えていましたが、また状況が変わってきて明日成立するかもしれないそうです。ここでは四国新聞に出ていた共謀罪についての解説を引用しておきます。

矛盾だらけの法案 乱用指摘の声 依然根強く
「未遂が罪にならないのに、なぜ謀議しただけで罰せられるのか」「組織的犯罪集団による収賄ってあり得るの?」。そんな素朴な疑問に答えられない「共謀罪」新設法案について、政府、与党が31日、今国会の成立を断念した。継続審議となるが、国際条約批准の条件整備にこだわった矛盾だらけの法案。二回の与党修正で適用団体などは絞り込まれたが、捜査機関による乱用の危険性を指摘する声は依然根強く、慎重な議論が必要だ。
法体系覆す
公園のトイレに落書きしようとした男が、ペンキを塗る寸前でやめた。別の二人組は落書きの打ち合わせをして一人がペンキを買いに行ったが、こちらは実行はしなかった。この場合どうなる?
関東学院大の足立昌勝教授(刑法)が、法案の根本的矛盾を解説する例を挙げた。答えは「男は処罰されないが、二人組は建造物損壊の共謀罪で有罪」。二人組には何とも納得できない結論だ。
共謀(計画)―予備―未遂―既遂。犯罪には一般にこの四段階がある。日本の刑法体系では犯罪の実行を処罰するのが原則。「陰謀」も処罰する内乱罪などは例外中の例外で、未遂罪や予備罪が設けられているのは殺人など一部に限られている。
もちろん、足立教授の例題の建造物損壊に未遂、予備の罪はない。
謀議だけで共謀罪が成立した政府原案に対し、与党修正案は「準備その他の行為」を処罰の要件に加えたが、それでも足立教授は「ペンキを買いに行く行為が『準備』と判断される。予備罪さえない犯罪なのに、その前段階の行為を罰するのは刑法体系を根本から覆す」と指摘する。
ミスマッチ
さらに首をかしげるのは共謀罪の対象犯罪。批准を目指す国際組織犯罪防止条約が「懲役・禁固4年以上の犯罪」を対象としているため、与党は「4年以上」にこだわり、「5年以上」の野党修正に頑として応じなかった。
結果、対象は600余りの罪に。一方で、与党修正案は対象団体を「組織的犯罪集団」に限定。これで市民団体や労働組合に適用される心配は薄れたが、多数の罪が組織的犯罪集団にはミスマッチとなった。
収賄、特別公務員職権乱用などの身分犯や業務上過失致死傷などの過失犯…。内田博文九州大教授(刑法)は「処罰は限定的にする近代刑法の原則に反する。必要ない罪が入っていれば、別件逮捕など別の目的があるとみられても仕方がない」と批判。
さらに「今のままでは、市民団体などを捜査する根拠法になりうる。やがて、その捜査のために盗聴がどんどん拡大されるだろう」と懸念している。
(四国新聞2006年6月1日)