横浜事件の再審控訴審判決

以下は四国新聞2007年1月20日より

司法へ不信感あらわ 無人被告席に落胆の視線 遺族ら

「控訴を棄却する」。東京高裁が19日言い渡した横浜事件の再審控訴審判決。無罪判決を、という元被告の遺族の願いは再び裏切られた。「恥を知れ」。傍聴席から怒声が飛び、遺族らは誰もいない被告席を落胆した表情で見詰めた。
公判後、東京都内で記者会見した元中央公論編集者木村亨さんの妻まきさん(57)は「これが司法というものか」と不信感をあらわに。上告で舞台は最高裁に移るが「司法が謝罪し直すことを求める気持ちでやる。あきらめない」と決意を新たにした。
「無罪を言い渡すと裁判所に不都合があるのか。事件の全容解明を願っていた父の遺志に反する判決だ」。元改造社社員小林英三郎さんの長男佳一郎さん(66)は納得いかない表情を浮かべた。
元日本製鉄社員高木健次郎さんの長男晋さん(65)も「憤慨という言葉を通り越し、いい言葉が見つからない」と怒りを抑えられない。元満鉄調査部員平館利雄さんの長女道子さん(72)は「お上に盾つくことは許さないという判決だ」と語った。
弁護団の環直弥弁護士は「一、二審とも再審制度の本質がまるで分かっていない。形式的な解釈で結論を出している」と批判した。

「人間的な判決じゃない」元被告の妻、闘う決意新た

「ひどい判決だが、これでやめようとは思わない。どこまでも司法を追い詰め、こちらが正しいことを分からせたい」。中央公論編集者だった故木村亨元被告の妻まきさん(57)は、控訴棄却を言い渡した19日の東京高裁判決を受けて、最高裁でも無罪を主張し続ける決意を新たにした。
阿部文洋裁判長が読み上げた判決文は心に響かなかった。「たとえ無罪でなくても全力を尽くして書いたのならよかったが、法律の条文ばかり。人間が人間に向かって書いたものとは思えない」と怒りが込み上げた。
「訴え続けることが国を反省させることにつながる。この歩みが歴史を後世に引き継ぐことになる」。無罪を求めて闘う木村さんの原動力だ。
判決の二日前、都内の大学生から横浜事件をテーマにした卒論を書き上げたというメールを受け取った。「横浜事件だけじゃなく、共謀罪の新設案も根っこは同じ。日々起こることに目を向けなくては」と木村さん。
この日の朝、母校の小学校校歌を歌いながら裁判所に向かった。「絶えず努力していれば、高い山でも登れる」という歌詞が好きだ。「上告審もしっかりやりたい。また山を少し登るだけです」

"門前払い"に疑問も かたくなに無実確定拒む 横浜事件の再審控訴審判決 解説

横浜事件元被告側の控訴を棄却した19日の東京高裁判決は、元被告側が免訴を不服として無罪を求めたのに対し、免訴の適否を判断する前に「そもそも控訴できない」と"門前払い"した。裁判を打ち切る免訴を被告に有利としているが、かたくなに無実の確定を拒む裁判所の姿勢には、元被告の遺族でなくても首をかしげる人がいるだろう。
この日の高裁判決は、1946年の食糧メーデー天皇を批判するプラカードを掲げたとして、不敬罪で起訴後に大赦となり、免訴を言い渡された被告が無罪判決を求めた「プラカード事件」で「免訴判決に対する上訴はできない」と判断した最高裁大法廷判決(48年)を引用した。
元被告側は「通常の裁判のプラカード事件と、無実の人を救う再審では対応が異なる」と反論したが、高裁判決は「免訴の理由があれば審理、判断は許されない。再審でも同じ」として退けた。
また、再審開始を認めて検察側の即時抗告を棄却した同高裁決定は、無罪を示す新しい明確な証拠を認定。再審一審の横浜地裁判決は免訴とする一方で「高裁決定は覆す余地がない」として無罪確定者と同様に刑事補償を受けられ、名誉回復できるとした。
しかし、この日の高裁判決は地裁判決について「問題がある」と指摘。法学者からは「誤判是正という再審の理念を放棄し、治安維持法などへの反省から適正手続きを定めた憲法に反する。(有罪を言い渡した)司法の過ちを率直に正すべきだ」と批判の声が上がった。
最高裁はこれまで再審の門戸を広げたり、「著しく正義に反する」として除斥期間(権利の存続期間)などの例外を認めたりしてきた。横浜事件への判断が注目される。

関連:横浜事件(一人でお茶を)