朝日・読売・日経

新聞界の「勝ち組」三紙は新聞販売とニュースサイトの共同化のため業務提携した。『世界』2008年4月号の神保太郎「メディア批評」ではこの件を取り上げ、衰退する新聞業界での生き残りをかけて三強が弱者を排除しようとしていると見ている。

朝日は提携発表の数日前、読売の同意も得て、北海道・帯広の夕刊地域紙=十勝毎日に道央部とオホーツク海沿岸にいたる道東部に配布する朝刊の印刷を委託する協定を結んでいた。読売が早くから十勝毎日でやっていたことなので、その同意が必要だったのだ。読売にしても、輸送や配達が一緒にやれれば、経費節減が期待できる。二紙一緒なら、歯の立たなかった地元の有力紙、北海道新聞にも強気で立ち向かえる。両紙は提携後、販売・配達の共同化を、毎日・産経がまだ強い大阪周辺部や、強大な地元紙、南日本新聞のある鹿児島でも推進する、としている。三紙の合意文書には「三社以外の新聞社等が将来(提携に)参加することを排除しない」とある。しかし、部数の少ない毎日・産経が提携に加わり、同一の販売店に販売・配達を委ねることができても、朝日・読売より低い販売手数料・補助、拡張経費しか出せなければ、その販売店は購読者に毎日・産経は止めて朝日・読売を取るよう奨めるだろう。これでは弱者はこの提携に入れない。その点、経済紙である日経は、全国紙、地方紙を問わず、各地で有力な一般紙の専売店に自紙の多くを合同販売方式で預け、しばしば高めの手数料を払ってきている。三紙提携には、支払い手数料の安い相手新聞を選ぶ範囲が広がる意味があり、文句をいう筋合いにはない。
(引用元:神保太郎「メディア批評」岩波『世界』2008年4月号)

川崎泰資、柴田鉄治『検証 日本の組織ジャーナリズム―NHK朝日新聞 』(岩波書店)には、ナベツネが取締役論説委員長に就任してから読売は朝日と対決する姿勢を鮮明にした保守路線に傾き、それは中曽根政権とも歩調を合わせるものだったが、読売に対抗する側だった朝日が近年だんだん読売に近づいてきているのではないかとの危惧が語られていた。
同様の心配を神保太郎「メディア批評」もしている。

「あらたにす」発表特集紙面の三紙論説責任者鼎談は、読んでみると、意見の違いが際立つというより、少々意見が違っても三社仲よく、とする雰囲気が強い。やがて渡邉主筆の影の下に、みんな治まるのかという危惧が、頭をもたげてくる。
(引用元:同上)

読売と朝日の関係、なにかこう、自民党民主党の関係に似てきていないだろうか。
そしてそうなると、毎日新聞はあったほうがいいのではないか、読売や朝日とはひと味ちがう記者の個性が出た記事を出せる新聞として、毎日の存在は貴重なのではないかと思えてくるのだ。産経もあったほうがいい。多様な新聞があったほうが、取り上げられる出来事にしろものの見方にしろ、一色に染められる危険が薄められるだろう。

付記

『検証 日本の組織ジャーナリズム―NHK朝日新聞 』は続編も出ているようだ。

検証 日本の組織ジャーナリズム―NHKと朝日新聞

検証 日本の組織ジャーナリズム―NHKと朝日新聞

組織ジャーナリズムの敗北―続・NHKと朝日新聞

組織ジャーナリズムの敗北―続・NHKと朝日新聞