オール・ザ・キングスメン

DVDで鑑賞。
富裕層の腐敗した政治に憤り、民衆のための政治を目指してルイジアナ州知事になった男が、やがて政治家として悪に染まっていく過程を描く。
田舎町の役人ウィリー・スターク(ショーン・ペン)は、金持ち階級の都合で不正が行われ、貧しい人たちが見捨てられたままの現状をなんとかしたいと考えていた。
そんなスタークを、知事選の対立候補の票を削るため当て馬として利用しようとする者が現れる。最初はだまされて話に乗ったスタークだが、自分が富裕層の手先に利用されていることに気づき発奮、演説で有権者の心を掴み、知事になってしまう。
病院建設をはじめとして、当初の志に沿った施策もなされるが、知事という権力者になってからは、政治家としての悪にも手を染めるようになる。しかし、それは、田舎から成り上がったスタークが、既成の支配階層に対抗していくための手段という側面もあった。
スタークをずっと取材してきたジャック・バーデン(ジュード・ロウ)の目を通して、物語が語られる。
ロバート・ペン・ウォーレンの小説「すべて王の臣」は1949年に一度映画化されており、これはその作品のリメイクなのだそうだ。
理想に燃えた政治家が、現実の中で汚濁にまみれていく姿、それでもなお、自分のやろうとしたことを、現実化させようとする執念。ショーン・ペンはさすがにうまく、スタックはもっと強烈に迫ってきていい筈。しかし、なぜか食い足りない不満が残った。
語り手になっているバーデンを演じたジュード・ロウのほうが、画面に映っている時間が長かったな、そんな印象が残りました。
このバーデンですが、ルイジアナの上流階級出身で、スタックからすれば既得権益を死守しようとする抵抗勢力の側にいるんですね。しかし、同時に、社会をもっといいほうに変えられるんじゃないかと理想も持っている。そのせいで、スタックに惹かれて、ずっとジャーナリストとしてスタックを追い続けることになるんです。
しかし、スタックは勢力を増すにつれ、バーデンの親しい人たちと対立したり、傾きかけた旧家の友人に食い込んできたりしはじめる。
そんな微妙な立場にいるバーデンの心理描写は、うまく出ていた。バーデンの過去回想シーンは、時間を割きすぎているとすら思ったよ。それなのに、肝心のスタックの描写がいまひとつでした。スタックが、だんだんと変貌していく様子が描かれていなかった。知事になったら、いきなり人が変わってるように見えたよ。汚職についても、もっとわかりやすく見せて欲しかった。
ひょっとしたら、この映画は、バーデンが主役で、私がスタックの物語だと思い違いをしているのだろうか。
背景となるルイジアナの田舎や街の景色はよく、1949年ごろの服装もすてきだった。全体に陰影の濃い映像もドラマにふさわしい絵を見せてくれていた。
それだけに、おはなしがもうひとつなのが残念でした。
さて、次はおまけの感想になります。
映画の出だしで、車にショーン・ペンジュード・ロウが乗ってる場面があるんですが、ショーン・ペンの、鼻が長くて目が小さくて額にしわが寄ってる顔と、その後ろの座席に座っているジュード・ロウの、大きくて涼しげな目と、鼻から口、顎がきれいに整った顔立ちが続いて映ると、昔のフランス映画で、リノ・バンチェラとアラン・ドロンがいっしょに出てる場面があったのを思い出しました。
うっかり似てるなんていうと、四人のファンそれぞれから怒られそうなのでこのへんでやめますが、私はそんな風に連想しちゃったね。
ジュード・ロウは、顔立ちが整ってる演技派になるだろう。アラン・ドロンは演技派ではなかったけど、映画スターとしては稀有な存在だった。ロウよりドロンの顔のほうが凄いね。ヴィスコンティは、ジュード・ロウにはだまされなさそう。