- 作者: 斎藤貴男
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2011/07/28
- メディア: 単行本
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世論はどのようにして形成されていくのか。私たちは何に気をつけなければならないのか。
斎藤貴男が様々な事例を取材し、広報活動や報道媒体の現状を明らかにしていく。
目次はつぎのとおり。
『世界』に連載された「民意偽装」をまとめたもので、とくに原子力神話については3月11日の原発事故以降に取材して書かれた部分も加えられている。
次の三点が、鍵。
PRは、一目でそれとわかる商品広告とはやや性質を異にする広告のことで、政府もある政策を受け入れさせたいときに、国民に向けて行う。しばしば、ある社会問題についてのシンポジウムの報道のような形で誌面に登場する。広告と見分けることができないまま読まされてしまうことがある。テレビや新聞は私企業からの広告が減ってきているので、国策PRもどんどん載せてしまう傾向が強まっている。
これはとくに原子力ムラが行ってきたPR活動を具体例に調べられている。資源エネルギー庁が企画した「エネキャラバン」のシンポジウムにパネリストとして参加した女性の体験談を引用してみる。
「私はシンポジウムで、この地方に地層処分を持ってくるのには反対ですと、はっきり発言したんです。司会者が次々に話題を移していくので、言い出すきっかけ掴めなくて、ですから最後のまとめのところまで待って、やっと言えました。まったくのおばさんですからね(笑)。でも新聞ではしっかり削られていたんです。そうですか、あれは広告だったんですか。普通の記事じゃないとは思っていましたが」
彼女はもともと、地層処分に賛成でも反対でもなかった。というより、個人的にはあまり関心を抱いていなかったというのだが、発言するからには、いいかげんに済ませるわけにはいかないと考え、懸命に勉強した。この地方には数十年前に原発が誘致されかかり、先輩たちが反対運動を重ねて撥ね除けた経緯があることも知った。
「それも事前に質問事項を送れと言うので送ったんですが、全部カットされました。高レベル放射性廃棄物の地域への影響は? 高レベル放射性廃棄物はどういう毒性を持っているのか? 高レベル放射性廃棄物はどのくらいの間、安全に管理しなければならないのか? ――千年は必要だ、と資料にありましたからね。等々。他にもいろいろ書いたのですが、結局、タイムテーブルに載せてもらえたのは、女性として心配なのですが、という質問だけです。これは新聞にも載りました」
彼女の質問に対しては、あらかじめ準備の万端が整っていた。放射能の簡易測定器が用意されていたのである。国側の参加者が「放射線はどこにでも存在する」と言い出し、「ではこの会場の放射線を計ってみましょう」と司会者が受ける。かくて「放射性廃棄物の処分後の目安値はもっと低いのだから大丈夫」という論法が導かれた。パネリストは「妊婦はレントゲンも撮れないのに?」とも尋ねたが、この発言も新聞では削られた。福島第一原発の事故をめぐって、この間、政府や原子力の専門家が幾度となく繰り返している説明と、まったく同じだった。
(引用元:斎藤貴男『民意のつくられかた』岩波書店、p39-40)
PR活動は小中学校での原子力教育にも及ぶ。理科や社会科の教科書もPRの媒体とみなされている。
世論調査に関しては「五輪招致という虚妄」で、「道路とNPO」では "新しい公共" という謳い文句が権力側に都合よく使われ、市民たちの活動が行政に取り込まれてしまう様子が描き出されている。
PRする側は確信犯だが、権力者が大衆をだまそうとしているというだけでは言い切れない部分がある。くわしくは本を読んでみてください。取材したときの相手の返答ぶりなどを読まないと伝わってこないものがあるのです。
福島第一原発事故の後、ウェブ上で書いたコラムがあまりに無責任だと非難された蟹瀬誠一へのインタビュー(5月下旬に行われたもの)、事業仕分けに対して当初は批判派だったが最終日を傍聴した後讃えるようになったアルファブロガーとして池田信夫の名が出てきたのが、ネット民としては目についた。