週刊朝日の佐野眞一による橋下ルポの感想

水曜日に書いたのの続きみたいになりますが
http://d.hatena.ne.jp/nessko/20121017/p2
さすがに、表紙に出てた見出しだけでいろいろ言うのもいかんやろなということで、週刊朝日、買って読みました。大阪では完売だそうですが、田舎のキオスクにはまだ残ってました。
まず、タイトルですが、橋下徹本人が、苗字ははしもとと読みます、と言っているんですから、それをあえてちがう読み方にするのはそれだけで悪意を感じます。
また、見出しに出ていたDNAという言葉、自然科学用語ではなく、そこから派生した文学的意味合いを汲んでのレトリックとして用いられていると解釈できますが、読む人によってはそのまま「DNA」を指していると受け取ることもあるでしょう。使うべきでないと思いました。血脈を辿るというのは、従来であれば政治家としてあるまじき振る舞いを平然とやり続け、それでも一部の人に支持されてしまう橋下徹という稀代のキャラクターに着目し、その性格形成の背景を探ろうという意図のものと理解しました。しかし、当人にしてみれば幼少時に別れたままの父親のことを調べられてあれこれ言われても答えようがないし、スターの評伝のようなものとはいえても、政治家への批評として正統的手法かといわれると、そうではないとしかいえない。
また、同和差別というのはまだ現実に社会問題のひとつとして残っており、佐野眞一がこのルポで橋下徹の来歴を追う過程で差別する側の姿を描き出し、そのことで同和差別について問題提起できるかもしれないのだが、それによって強い橋下徹なら傷つかなくてすんでも、彼とは別の弱い人が傷つく結果になるかもしれない。
同和差別については、橋下市長が昨日の会見で訴えていたことには理があるのです。差別するかしないか、それは差別する側の問題であって、一部の人権団体のやり方のせいではないでしょう。
このルポ、出自で人を決めつけるな、という抗議が来るのは致し方ない部分があります。
同時に、そんなことは百も承知でそれでも書かずにはいられない、という、佐野眞一の怒りを感じさせるものでもありました。
佐野眞一のルポは、日本維新の会旗揚げパーティーの模様から始まります。週刊朝日取材によるパーティー券売りの裏話を紹介しながら、橋下徹のあいさつ、他党を離党して維新の会に参加した国会議員の姿などを描写、そして、パーティー会場で出会った今年九十歳になる老人との会話。元中小企業の経営者だというアクの強いおもしろすぎるおっさんなのだが、話すことの内容からタカ派であり、なにかかんちがいしたまま無邪気に橋下徹に期待しているのがわかる。
佐野眞一は、今の日本の議会政治の状態は、ワイマール共和国末期とよく似ているという。そこから、一部の人たちの不満のはけ口のような形で人気を集めた橋下をヒトラーと似ていると見做し、これといった政治信条を語ることもなくテレビでその場の受けを意識しているだけで政界の新スターとなってしまった橋下徹の、これまでの政治家ならゆるされなかったであろう言動を繰り返しても逆に人気を集めてしまう人物像に興味を持った。それが取材の動機になっている。

だが、初めに断っておけば、私はこの連載で橋下の政治手法を検証するつもりはない。
橋下にはこれといって確固たる政治信条があるわけではない。
橋下にあるのは、古くさい弱肉強食思想と、恵まれない環境で育ったがゆえにそれを逆バネとした自負からくるエリート実力主義、テレビの視聴率至上主義そのままの大衆迎合思想、それに受験戦争を勝ち抜いてきた男らしく一夜漬けのにわか勉強で身に着けた床屋政談なみの空虚な政治的戯言だけである。
思えば、維新の会の旗揚げパーティーは橋下のピークだった。橋下が竹島は日韓の共同管理以外ないと言ったとき、この男の大半の支持層の右翼ナショナリストを失った。
極論すれば、橋下の考えはすべて世情に阿ったテレビサイズの世界におさまってしまう。そこにこそ橋下人気の秘密がある。逆に言うなら、橋下人気の裏側には保守化する国民の集合的無意識がべっとりと張りついている。
(引用元:佐野眞一「ハシシタ 奴の本性」週刊朝日2012年10月26日 p22)

橋下徹大阪府知事選に担ぎ出したのは自民党だった。
自民党が、小泉ブームでボケがきて、テレビサイズの発想に囚われ、大衆に阿るようになったのだ。そしてテレビで人気のタレント弁護士だった橋下を政界に引き入れてしまった。
私が政治家・橋下徹を信用できないのは、言うことがすぐ変わり、何を目標としているのかわからないからだ。
佐野が生い立ちまでさかのぼろうとするのも、政治家として橋下が何をやりたいのかがわからないから、というのがあるのではないか。
『世界』では、大阪の反橋下勢力も認めざるを得ない、橋下徹の政治家としての実行力が報告されていた。
実行力はあるようだが、何をやりたいかがよくわからない。そのせいで、佐野眞一が生い立ちまでさかのぼりたくなる、稀代の政界スター。
それが今の橋下徹だ。