村上龍「オールド・テロリスト」第十九回 文藝春秋2012年12月号

関口とカツラギは、ガンさんの仲介によって、指示されて出向いた怪しげなクラブでジョーと呼ばれるイラン人とのハーフの男に会う。クラブからカラオケルームへ移り三人だけになるが、子供のような背丈しかない坊主頭のジョーは鋼のような筋肉に覆われた全身から油断ならない気を発し、会話しても無表情のままで反応が読み取れず、関口は困惑するばかりだった。しかし、なぜかカツラギはジョーとうまく会話が続き、関口を取り残したまま二人は打ち解け、カツラギはジョーに仕事を頼む。……
世慣れた金持ち有閑マダムが集うクラブ内では、居心地の悪さに耐え兼ね体調を崩しそうになったカツラギが、関口の目からすればあぶない雰囲気の無口なジョーに対しては自然体になって打ち解けていく。二人がカラオケで歌い、言葉を交わしていく場面がよい。中に入れない関口も関口として自然体である。
さて、この「オールド・テロリスト」は、ショック療法で日本を立て直そうと目論む老人たちの一部が過激化し暴走を始め、彼らと関わっていたミイラのような老人がこのままでは大惨事になると見て、過激派老人グループの暴走を阻止するようくたびれ果てて失うものがない中年ルポライターの関口に頼み、関口は強大なパワーを持つらしい相手からの頼みをことわりようがない状態のまま、アキヅキのクリニックの帳簿を盗み出してくれそうなジョーに会いに行ったりしているわけだが、いやあ、なんか物語の大枠というか、コアなアイデアが、現実と共振しはじめてるようでこわいのだわ。
関口は、映画館で多数の死傷者を出したテロを引き起こした過激派老人グループは、日本を立て直すというよりは、何かを終わらせようとしているのではないかと疑っている。
改革するといいながら破滅への企てを実行しようとする老人。イメージすると、何かが頭をよぎりませんか。すごくわかりやすいイメージが。
まあいいんだけどね。
映画館でのテロ、というのも、ちょっとあれなんだが、これはいつもの村上龍イリュージョン、私みたいな龍ファンにとっては、きたきたきた、この調子! で、早く続きが読みたいのでした。