安田浩一『ネットと愛国』講談社

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて (g2book)

ネットが産んだ排外主義集団、在特会を探るルポ。
鶴橋での在特会のデモの描写からこのルポは始まる。取材目的でその場に来ている著者さえも、響き渡る罵声と店の前で顔を伏せたままでいる高齢者の姿にいたたまれなくなる、そんな光景が切り取られる。
著者の安田浩一は取材中、在特会のメンバーからだけではなく、差別や人権を守るために活動している人たちからも非難され続けたという――在特会に理解を示し過ぎだ、レイシズムに対する批判が足りない、と。
それでも、とにかく自分はまず在特会に参加している人たちに近づき、その実像をつかまえたかった。そんな思いで書かれた本だという。そして、同様の興味を持つ人にとってはたいへん読み出のあるルポとなっている。
またそれは、別の人にとっては、在特会だけでなく、著者や私のような読者のことを分かれる読書体験になるということかもしれない。
著者が出会った様々な人たちのことについては、ぜひ本を読んでもらいたい。
在特会は、まさにネットが産んだ市民団体なんですね。Doronpaというハンドルネームで日韓翻訳掲示板で反韓国の書き込みをし続けて常駐者として知られるようになった桜井誠を、テレビ番組が朝鮮問題に詳しいブロガーとして引っ張り出す。ネット言論界で知名度を高めた桜井誠は仲間と共に2007年に在特会を起ち上げる。当初は勉強会のような性格が濃かったが、主権回復を目指す会西村修平の影響を受けて街宣活動主体の市民運動団体へと変貌していく。
取材した安田によれば、じっさいに在特会が街宣している現場では、演説を聞いて手をたたいたりするのは取り巻きだけで、通行人にはほとんど無視されたままという場合もざらにあるそうだが、常にデモの様子はカメラで撮られており、その映像がネット上で耳目を集めて話題になる、という流れがあり、はてなブックマークだけ見ているとわからなくなりがちだが、ネット上では在特会快哉を叫ぶ声が飛び交うという現象が起こる。ネットで映像を観て感動し参加する人が増え、現在に至っている、ということになる。
桜井誠だが、映像で見る限り華があるんだよね。口跡がよく通りのいいちょっと高めの男の声は、人を興奮させるなにかがあるのかもしれない。何人かの男の歌手を私は今思い出している。あきらかに顰蹙をかうことをわかった上で放つ罵声も、パンクロックやプロレス会場で声を上げるような気持ちのよさをもたらすのかもしれない。しかし、彼らが街頭でやっている行為はエンタメではなく現実に生きている人を脅かす政治活動なのだが、どこまで自覚があるのか。
この本では、在特会が言うところの在日特権とやらがデマに過ぎないこと、在日とよばれている人たちは現実には社会的に不利な立場に置かれた少数者でしかないことを、わかりやすく解き明かしてくれています。
思いつくことがいろいろあって書ききれませんが、今回はこの辺で。
ちょっとおどろきだったのは、在特会への参加者がぐっと増えたきっかけのひとつが

だそうです。
私は、朝日新聞に抗議してるあたりは在特会の映像をめずらしいものを見る興味をもっておもしろがっていたのを告白しますが、京都の小学校襲撃やカルデロン事件では、もはや言論の自由だとか言っている場合じゃないんではないかと思い始めて、人権擁護法案も文化人やジャーナリストは保守もリベラルも反対していたけれども、このままではいけないのではと考えるようになりました。
だから、ぜんぜん自分とは逆の反応する人もけっこうな数いたんだなと、いろんな人がいるのはわかりきったことなんだけれども、具体的にそれを知らされると、うーんそうなのか、と。それが、こういうルポを読む醍醐味でもあります。