サイコ

DVDで鑑賞。
会社の金を横領した女が宿泊したモーテルで殺される。
マリオン(ジャネット・リー)は恋人が金銭的な問題を抱えているせいで結婚できないことに悩んでいた。そして魔が差し、会社の金を横領してしまう。恋人のいる町へと向かうが深夜となり、目に入ったベイツ・モーテルというネオンに誘われそこで一泊することになったのだが、……。
ヒッチコックの「サイコ」は何度観てもいい。白黒の画面は墨絵のような濃淡で見る側の感覚を賦活させかえって色彩豊かな印象さえ与える。流麗な映像は淀むことなく物語を運び、登場人物の動き、カメラに乗った視線の移動が状況と画面の中の人物の心理を、映画ならでは、映画だからこその描写で見せてくれる。簡潔でわかりやすく、そして余韻がある。サイレント映画のテクニックが活かされており、これは観る人の想像力を刺激して、観る側も参加して楽しめるような気分にさせてくれるのですね。純粋な映画の楽しさが味わえる幸福感を与えてくれる。
今回見直してあらためて感心したのは、ジャネット・リーアンソニー・パーキンスの好演。すばらしいです。
個人的にはこのころのアメリカ西部の田舎町の光景も好きだ。単になじみやすいのだが、普段は陽光が明るく空気も適度にドライな雰囲気なのだが、盗んだ金を手にして逃走するマリオンが、深夜雨に降られ、濡れたフロントガラス越しに闇に浮かび上がるベイツ・モーテルのネオンを目にする、あの場面がいいな。火曜サスペンス劇場みたいな世界から、グリム童話にも通じる真の物語世界へと入っていく、劇中に入っていくぞ、そんなかんじがして。いまとなってはこういうのもクラシカルな楽しさになるのかもしれませんね。
原作のロバート・ブロックは、エド・ゲインの事件に触発されて小説を書いた。エド・ゲインについては『オリジナル・サイコ』(ハヤカワ文庫NF)がくわしい。