ファシズム:金融資本の最も反動的な、最も拝外主義的な、最も帝国主義的な要素の公然たる暴力的独裁

以下、平凡社の世界大百科事典1974年版より抜粋・引用。小此木真三郎(著)

ムッソリーニ政権成立当時からしばらくの間、ファシズムとは、資本家と労働者の両方に反対する中産階級の独裁であるとする意見もあったが、現在ではファシズムが労働者階級の革命的運動に対して危機にたつブルジョア反革命的暴力支配であること、またそれが帝国主義戦争のための体制であることなどは、一般に承認されている。

ファシズムは資本主義の全般的危機の産物であり、動揺に陥った資本主義を守るために現われる。そこでファシズムは、人民の民主主義的諸権利をふみにじり、特に革命的組織を弾圧し、場合によっては議会をも廃止して、激しい暴力支配をおこなう。しかしこのことは、ファシズムが成立するのは、労働者革命がまさにおころうとしている情勢にかぎるということを意味するものではない。個々の国の内外の条件によって、まだ大衆の運動が革命的危機をもたらすほど高まっていない場合でも、ブルジョアジーは、革命運動の先手をうって、予防的反革命としてファシズムを導入することがある。いずれにせよ、ファシズムブルジョア支配の強さのあらわれではなく、その弱さのあらわれであるといえる。

特に金融資本はブルジョアジー全体の利益よりも自己のグループの利益を特に強くおしだせる支配体制を要求する。しかも独占資本主義の矛盾のはけ口は、帝国主義戦争、侵略戦争以外にはありえないから、国内的・国際的矛盾が鋭くなるにつれて、独占資本の最も侵略主義的グループは戦争体制、侵略体制を強く要求するようになるが、この体制を確立するには戦争に反対する労働者階級の組織を無力化しなければならない。こうして独占資本のうちの最も反動的で侵略主義的な分子がファシズムを推進し、ファシズムを打ち立てるのである。<金融資本の最も反動的な、最も拝外主義的な、最も帝国主義的な要素の公然たる暴力的独裁>という定義は、上述のことを念頭に置いている。と同時に、この定義はファシズムがすでに成立したか、それともまだファショ化の進行過程にあるかを判断する基準を与えており、またファシズムの成立途上であらわれる支配階級内部の対立を人民が利用するよう指示していると解釈される。

ファシズムは大衆をひきつけようとして、種々のデマゴギーを用いる。それは資本主義社会の欠陥や腐敗を非難する<改革者的>内容をもち、時には<社会主義的>仮装をつける。

どこの国のファシズムにも共通するイデオロギーは、極端な国粋主義、侵略主義、階級協調主義である。たとえば、ナチ党の綱領が、全ドイツ人の結合による大ドイツの形成、ヴェルサイユ条約の廃止、植民地の獲得、ユダヤ人排斥、徴兵制による再軍備を要求しているのは、民族自決権、自衛権などの言葉で、表面上民族的独立と対等を求めるようなふりをしながら、実は近隣諸国に対する侵略権を主張し、拝外主義をふりまいているだけであって、またナチ党の唱える民族的団結とは、実は人民大衆が独占資本に奉仕することにほかならなかった。

ファシズムは権力を獲得し、また権力を維持するために大衆的基礎を作る。ファシズムはたんなる軍事独裁ではなく、たんなる警察支配でもない。人民が民主的自由をもち、種々の民衆的組織をもっている国々では、暴力だけでファシズム独裁をうちたて、維持することは困難であって、ある程度まで大衆のあいだに組織をつくり、これを足場にして権力を手にいれ、また権力を保たねばならない。

もちろん、大衆的組織・基礎をもたずにファシズムが成立する場合もある。しかしこのような国でも、権力を握ったファシズムは、国家機関その他を通じて、大衆的基礎をつくろうとする。1940年日本で近衞文麿内閣のもとに推進された<新体制><翼賛体制>は、ファシズム支配形態の完成であるとともに、上からファシズムの大衆的基礎をつくろうとしたものといえよう。

このようにファシズムデマゴギーの仮面をつけつつ、実は金融資本の暴力独裁にほかならなかったが、それが勝利を占めることができたのは、社会民主主義政党の指導部が、ファシズムの本質を見あやまり、あるいはその危険を過小評価して、ファシズムとの闘争を怠ったこと、そのために労働者階級の一致した反ファッショ闘争、また労働者階級と中産階級の協力による民主主義擁護闘争が十分組織されなかったことによるといってよい。

ファシズムが必ずしも議会や政党の禁止を伴うのでないとすれば、ファシズムの成立と、その前の段階との境界線をどこにひくかという問題が当然おこる。ふつう、<下から>にせよ<上から>にせよ、ファシズムが成立するときには、その前に支配の反動化、ファッショ化の段階、いわゆる半ファシズムの段階が存在する。ファシズムの前段階とファシズムそのものとの区別は、明白なファシスト勢力が権力を握ったかどうかによって決まるといってよい。イタリア、ドイツの場合には、この点が明確であるが、一般には共産党の非合法化、革命的労働組合運動の禁圧、これと結びつく出版・言論・集会・結社権の破壊等がファシズム成立の標識である。

冷たい戦争が公然と開始された1947年に、アメリカおよび他の多くの資本主義国のファッショ化が始まったのは偶然ではない。国内における革命運動弾圧のためよりも、むしろ国外の革命的勢力に対抗するために、支配のファッショ化がおこなわれることは第二次大戦後の大きな特徴である。それは資本主義体制の深刻な危機を示すものにほかならない。

第二次世界大戦後のファッショ化やファシズムは、全国際情勢によって大きく左右されている。

ソ連が消え中国も変貌した今、まだ「サヨク陰謀説」を唱える人たちは、ファシズム願望があるのかしらん。社民党共産党、どちらも弱小政党もいいとこで、もはやサヨク叩きは弱いものいじめにしか見えない。
国際情勢の変化に沿ったファシズム21世紀バージョンが出てくるのかな?