スウィーニー・トッド

ティム・バートン監督、ジョニー・デップ主演。同名ミュージカルの映画化。
十九世紀のロンドンを舞台にした不運な理髪師の復讐譚。グラン・ギニョール風味。美術と音楽で魅せる二時間。
物語世界を作り上げた美術が見事。黒味がかった色調の中、流血の赤もショッキングだけど下品に流れることなく芝居してました。役者は皆うまいが、わたくし的には今回はじめてヘレナ・ボナム=カーターをいいと思った。また役人に扮したティモシー・スポールが、体型と扮装がすごくマッチしていて、当時の風俗画から抜け出てきたようで見ていて楽しかった。
ティム・バートン監督の作品からはいつも大昔の、それこそサイレント時代くらい昔の映画への愛着が伝わってくる場面がよく見られるのですが、今回は役者のメーキャップのせいでそれが濃厚に感じられた。ラベット夫人が夢想するスウィーニー・トッドとの甘い生活は、映画やロックなどサブカルを心の支えにしながら暗い思春期を送った過去を持つものには見ていて痛痒くなってくるような絵が続き、ひょっとしてこれこそ「真・オタクの心の闇」なんじゃないかと思ったり。でも、ティム・バートンは、描き方があたたかいんだよね。
しかし私はお肉が大好きなので、ミンチや新装開店したラベット夫人のお店に並ぶパイや街中の市場にぶらさがっている肉塊を見ると、「ああ、ミートパイが食べたいな」としか思えず、なにか根本的にこの作品とすれちがってしまっているような気もしないではなかった。 orz
血は豪快に飛び散っていたけれど、物語世界の雰囲気になじんで残酷な絵だけど蝋人形館の世界が動き出したみたいに見えるので、いわゆるスプラッターのきらいな人もこれなら楽しめるかもしれない。
作品全体が一流に仕上がってるんですね。これなら芸術でしょう。
でも。スプラッターを愛してきた者はやっぱり忘れちゃいけない。アメリカン・スプラッターの聖地はロンドンじゃない。テキサス、だ。
『スウィーニー・トッド』公式サイト