藍川由美 日本の名歌を歌う ユープラザうたづ

藍川由美のコンサートに行ってきました。「日本の名歌を歌う」と題して、古関裕而と古賀正男の曲を歌ってくれました。古関裕而は「六甲颪」「イヨマンテの夜」「長崎の鐘」など、古賀正男は「影を慕ひて」「東京ラプソディー」「湯の町エレジー」など、懐メロ番組ではおなじみの曲をピアノ伴奏のソプラノで、ジプシー音階を取り入れた古賀メロディーではヴァイオリンも加わっての演奏。よく知っている曲がいつもとはちがったかんじで響き、歌が新鮮に聴こえたりしておもしろかったです。
クラシックのスタイルだと、歌謡曲の歌手にくらべると個人のキャラやアクが露骨に押し出されることなく、いったん声楽に濾過された上で歌手の色が表されるように聴こえ、だから曲そのものがどういうものかがはっきりと伝わってくるような印象を受けましたが、私は音楽は小中学校の授業でしかやったことがないので印象止まりです。独学でもギターを弾いたりする人なら、もうちょっと明快に感想が書けるのかもしれません。
藍川氏は、子供のころからピアノを習い、芸大に進んでずっとクラシックの勉強をしていたので、若い頃は日本の流行歌は俗っぽいので避けていたそうですが、だんだんそういう思い込みも消え、音楽の勉強を積んだ後に曲として聴いてみると名曲がたくさんあることに気づき、今は日本の歌の良さをもっと広く理解して欲しいと音楽活動を続けているそうです。
昨今の風潮では、日本の歌はすばらしい、などと言うと、ぷちナショな方々が寄ってきたりする恐れもあると思われますが、藍川氏が曲の合間に話してくれた、歌にまつわる豆知識はおもしろくて、クラシック一筋だった藍川氏がある日突然それまで見向きもしなかった流行歌のおもしろさに気づき、そうなると音楽のことをよく知っていますから、調べれば調べるほどおもしろさの深みにはまってしまい、この楽しさを他の人にも知らせたいと立ち上がってしまった、もっとも良質なマニアなのだと私は思いました。
藍川氏の体験談によれば、古賀メロディーはウィーンの音楽家も聴くとすぐ好きになって覚えて自分で弾いたりしてしまうとか。だからぷちナショな了見で日本という枠に押し込めるのにはもったいない歌なのですね。境界を越えてよい影響を及ぼしあうという可能性を実感させてくれるのが音楽という領域なのかもしれない。藍川由美のコンサートはそんなことも教えてくれたように思いました。