グエムル ―漢江の怪物―

  • 原題:THE HOST/怪物
  • 2006年、韓国
  • 監督:ボン・ジュノ
  • 脚本:ボン・ジュノ、ハ・ジョンウォン
  • 出演:ソン・ガンホ、ピョン・ヒボン、パク・ヘイル、ペ・ドゥナ、コ・アソン

DVDで鑑賞。
漢江に怪物が現れ、売店を営む一家の娘がさらわれる。
冒頭、在韓米軍の霊安室アメリカ人医師が、埃をかぶったホルマリンの瓶が多数並んでいるのを見咎め、部下の韓国人医師に捨てろと命じる。韓国人医師は毒性が強いので流しには捨てられませんと反論するも、漢江は広いから大丈夫だといわれてしまう。
それからしばらく後、漢江で釣りをする人の様子が映る。川にはまりこんで釣りを楽しんでいた二人が、おかしな生き物を見つける。「足があるぞ」といってめずらしがる二人。カメラが引き、漢江が雄大に画面を流れる。ごうごうとした水音、ややくもった空の不穏な眺め。
2006年、橋から身を投げようとしている男が見つめる川面。雨が降る中、黒々とした水が動いている。
そして、ある晴れた日の、漢江のほとりの売店。川岸には大勢の人が遊びに来ており、売店も繁盛している。売店を営んでいるのは、老いた父親と長男。大卒の弟やアーチェリーの選手になっている妹にくらべると、長男はとっぽくてのんき。しかし彼は別れた妻との間に生まれた娘を育てる父親でもあった。娘との仲はいい。
川辺で遊んでいた人たちが、橋に何かぶらさがっているのを見つける。動いている。生き物らしい。人々が見守る中、水中に落ちた生き物が泳いでくる。おもしろがる人たち。しかし、すぐにその生き物は上陸し、居合わせた人たちを襲い始める。パニックになる川辺。怪物としかいいようのない生き物が、人を食う。売店の親子も逃げ出すのだが、娘が怪物の触手に巻かれて連れ去られてしまった。
死んだと思われていた娘から携帯に通信が入る。売店一家は娘が生きていることを確信、助け出そうと動くが、警察も、医師も、米軍も、誠実に対応してくれず、信用できない。一家は自分たちだけで、娘を救い出すことにする。
怪物の造形がすばらしい。形は魚に手足が生えて口が変形したようなかんじで、両生類のようなぬめっとした質感がある。身体がぐにゃぐにゃと自在に曲がり、バック転しながら橋をつたってすばやく移動する。走るのも速い。長い触手を伸ばして人をとらえるのもうまい。昔の水墨画や、ブリューゲルの版画に出てくる幻想的な怪物を思い出させる。水中を泳ぐ影が水の上から見えるところなど、生き物がぐいぐい動いているのが生々しく感じられた。
売店一家も、悪口を言い合いながらも根本では仲がいいのが自然に出ている。父親が出来のよくない長男のことを特に心にかけているのが、おかしさの裏にきっちり貼りついて伝わってくるし、同時に、政治権力に対して家族が一丸となって戦わなければ生きのびられない背景も見える。信用できるのは家族だけみたいな雰囲気が濃く感じられるのだ。
闇で手に入れた武器を携えて怪物退治に出かける老父と兄弟が、一般市民なのに銃を使うのがごく自然に見えるのは、韓国には徴兵制があるせいなのだろうか。日本でも、猟銃使う人はいるんですけれども、少数派になりますよね。
怪物出現の後、犠牲者の遺族が集まっている場所にやってきた警官が、ひと転びしてから堅物然と喋りだしたり、笑いの要素がほどよく配分された作品でもありました。警察に指名手配された状況下で売店一家がカップ麺を食べるところなど、お湯を注いでから待つ間が妙に緊迫し、その後、ラーメン食べ始めると乙な和やかさが漂ったりとかね。社会批判も胡椒として効いていました。
映画全体を支えていたのは、漢江でした。漢江、橋、下水道など、川を中心とする景色、眺め、建物、音、向こう岸に飛び去った怪物が悠然と人を食っている背後に広がる緑と上を飛ぶ鳥。
でも、ああいう川を見ると、異国を感じるな。大陸的な川だよね。