マン・ハント

DVDで鑑賞。
イギリス人の狩りの名手が、ヒトラー暗殺を企てたと誤解され、ナチに追われる。
世界的に狩りの名手として知られるソーンダイクは、ドイツに旅行した際、ヒトラー総統の山荘付近に侵入、いたずら心からバルコニーに出ていた総統に遠方からライフルの照準を合わせる。しかし、そこで警備に見つかり捕えられる。
ナチ幹部がソーンダイクを詰問し、暗殺未遂の供述書に署名させようとするが、ソーンダイクは拒否。業を煮やした幹部はソーンダイクを自殺に見せかけて殺そうと崖から突き落とす。しかし、ソーンダイクは生き延び英国へ逃げ帰る。ナチは彼を追い、英国にまでやってくる。
白黒映画だが、場面ごとに光と影を絶妙に活かした絵で情景が描かれ、カラー映画にはない美と深みを見せてくれる。
陽射しの差し込むドイツの森、カーテンで閉ざされた薄暗い部屋、ひきずられてきた傷ついた男の足が絨毯に残した跡、窓から光が差し込み壁に濃い影が映る様子、霧のロンドン、ぼんやりと薄暗い中にともるガス灯。地下鉄でもみあう男の持つ刃物がレールに接触して火花が散る、一瞬の死。
登場人物の落とす影が、そのときどきの様子や感情まで濃く描き出す場面演出が見事だった。
パスポートを奪われ、ロンドンに逃げ帰ったソーンダイクを偶然かくまうことになる女性を演じたジョーン・ベネットが、気のいい下町娘を好演。粘着性のいやらしさでソーンダイクを追うジョージ・サンダースも適役。子役時代のロディ・マクドウォールも見られるが、大人になっても顔があんまり変わってないなと思いました。
かんじんの主役は、あんまり印象に残らないなあ。まあ、役が良識的な紳士だから、ほどよくはまっていたということか。
原作はベストセラー小説らしいのだが、劇画的な内容。娯楽映画にするのにちょうどいいかんじかな。しかし、フリッツ・ラング監督、光と影の扱いは見事だが、追っかけのスリルとサスペンスでひっぱる技は、ヒッチコックには及ばない。おはなしとしては、もっとどきどき感が盛り上がっていい筈なので、同じ原作をヒッチコックが撮ったらどうなるだろうと想像してしまったりもした。
リドリー・スコットの「ブラックホーク・ダウン」見た後で、スピルバーグだったらなあと思ったのと似た、ないものねだりをしたくなりました。
ヒッチコックスピルバーグの、あの映画全体が途切れることなく流れるように動いていく、あの動的な印象、映画そのものとしかいいようがない快感は、めずらしいんだね。映画の天才、なんだろう。じつはトリュフォーにもその快感があると思うのだけれども、スリルとサスペンスと活劇の作家ではなかったから、並べていいのかどうかわからない。
未知との遭遇」にトリュフォーが出ていたけれども、スピルバーグとは波長が合うんだろうと思う。
しかし、フリッツ・ラングは、上の三人には描けないドラマをちゃんと見せてくれそうな、いい意味でのいやらしさが自然に備わってるようで、まとまらなくなったけど、映画監督もいろいろいるなあ、だから観てておもしろいんだなと、言うまでもないようなことを再認識いたしました。古い映画を観るのも楽しいですよね。