村上龍「オールド・テロリスト」第九回 文藝春秋2012年2月号

関口はカツラギに連れて行かれた心療内科で、アキヅキという医師と糸電話で話し続けている。取材の糸口をつかみたい関口はアキヅキから情報を引き出そうと必死だが、どうやら相手のほうが上手らしい。自分はテストされているようだ、そう感じはじめた関口。やがてアキヅキはとんでもないことを話し出した。……
アキヅキは、老人になれたのはタフなものだけだよ、と語る。これは非常に納得できる。老いるまで生きない人は多いわけで、まだ若さいっぱいの人にはぴんとこないかもしれないが、40を過ぎた人ならわかるだろう。小説の流れでは、これまでも村上龍がよく持ち出した自然淘汰みたいなわりと男の人がよくいいたがるあの考え方にダブる印象もあるが、この小説の狂言回し役というか団子の串役になる関口が挫折を経験した疲れた中年男で、彼のその都度の感想が挟まれることで日常との接点が保たれ、その場面に浮き上がるこっけいさも感じ取れる描かれ方になっており、笑いの要素も持ちながらいいかんじで話が展開している。
現在四国新聞に連載中の「55歳からのハローライフ」とも重なる点も出てくるのだが、いかにも現実に起こっていそうな出来事が続く「ハローライフ」にくらべると、こちらはやや男の子ファンタジー寄り、しかし主演級が老人と中年男ということで、甘美になるには渋すぎる乙な味わいがにじんできている。
どうなるのだろう。楽しみだな。この小説世界では、東北の大震災でも日本は覚醒できなかった、ということなのだが、果たして現実は物語を超えられるだろうか? そこも気になるね。
羊たちの沈黙』を「ヒツチン」と略して呼ぶ老いた医師。キニシスギオはまだ見えない。