小林信彦『映画×東京とっておき雑学ノート』文春文庫

2007年に週刊文春に連載したエッセイをまとめたもの。
題名にあるように、映画と東京の街の変化がよく描かれている。時事としては、中越沖地震柏崎刈羽原発事故が取り上げられているのが目立つ。2011年に起きた事とおそろしいほど似た光景が見えるからだ。
2011年5月に書かれた文庫版あとがきで、著者自身も「これはそのまま、2011年にもあてはまるだろう」と述べている。

七月十六日の中越沖地震柏崎刈羽原発から黒煙が出ている眺めにショックを受ける。なぜか人が一人もうつっていない。
(中略)
二〇〇七年のときの大衆の声を改めて引用する。
「政治家がキレイな服を着て、形だけ激励にくるのはやめて欲しい」
「マスコミがうるさい。道をふさいでしまって、通れない」
「がんばれ、がんばれ、と頑張ることを強制しないで欲しい」
すべて、二〇一一年の東日本大震災と重なる。
(引用元:小林信彦『映画×東京とっておき雑学ノート』文春文庫 p273)

小林信彦はこのときの東京電力の発表を「広島に原爆が落ちた時の新聞発表と、どこか似ている」と評し、「まあ、政府や東京電力を、信用しない方がいい。自分が生きのびるための勘だけを鋭くしておくに限る」と書いている。くわしくは本を読んでみてください。
映画や芸能についての話はいつもおもしろく、東京でも近くの商店街にあった文房具屋がなくなって電車に乗ってノートを買いに行かなければならなくなるなど不便なことが起こっているのだなあと知らされ、ホワイトアスパラを食べながら友人たちと政治ニュースを話題する場面は、さすが小説家、うまいねえ、となり、何度読み返しても楽しめるエッセイ集です。