村上龍「オールド・テロリスト」第二十一回 文藝春秋2013年3月号

ジョーが手に入れたアキヅキクリニックの帳簿をナガタに分析させたところ、頻繁に利用するようになったバイク便の備考欄に、これまでテロが起きた場所の地名を示唆する語が書き込まれており、そして、その後は、原発立地箇所と見られる地名が並んでいることがわかる。ナガタは、バイク便の郵送先はすべて同一の会社の系列で、中心にいる新光興産という会社のことを探れ、おそらくあのミイラのような老人が何か知っている筈だ、と言い、関口たちはあの老人に連絡をとるのだが、……。
この小説の舞台は近未来の日本ということで、関口、カツラギさん、マツノ君の三人は、原発、と聞くと、あの大震災での原発事故と当時のことを思い出して沈黙してしまう。
新光興産の社長は社会貢献に熱心なワンマン社長で、経営者としては非の打ちどころがない。その社長の父親で創業者にあたる人物が満州からの引き上げだと企業沿革に書かれていたとナガタは言う。そこから、満州つながりでミイラのような老人が出てくるのだが、それはそれとして、現ワンマン社長はこの小説内で60代、ということで、まあ団塊の世代というか、あのあたりだろうか。
失業し妻子に逃げられた関口をはじめ、若いカツラギさんやマツノ君は安定剤をかじりながらなんとかがんばっている状態なのだが、一部の暴走老人は理想を胸に粛々と事を運んでいる。
不穏な方向へだがおはなしはさらに展開しはじめた。次号が楽しみ、「信頼、しうる、誰か」が何者なのか、早く知りたい。