村上龍「オールド・テロリスト」第三十五回 文藝春秋2014年5月号

元官僚山方のアドバイスに従い、アメリカで働いている金融に詳しい元妻の由美子に電話で相談した関口。書けば円暴落、書かなければ原発テロ、かといって警察に駆け込んでも信じてもらえるかどうかわからない。どうしていいか悩む関口に、由美子はいまの上司とアメリカの大学で同級生だった西木という人が現在内閣府副大臣になっているから、その西木という人物に相談してみればどうかと提案した。……
電話で冷静でかしこい元妻と話し、車に乗っていた娘の声を数年ぶりで聞き、関口は涙を流してしまう。カツラギさんは静かに関口を見守り、話し相手になってくれる。関口、たぶん女運はいいんだよね。
苦境に陥り、元妻と話したことで感情も揺れ、涙を流したりする関口には元妻は強く、そんな自分に淡々と意見を述べるカツラギさんも妙に落ち着いた存在に見えているようなのだが、彼女たちだっていまの関口みたいな状態になったことはあるだろうし、そんなとき彼女たちを見守り話し相手になってくれた人はいたのだろうかと、ふと思ってしまった。
人前には出られないような状態にある関口の側にはカツラギさんがいて、話し相手になってくれているけれども、それって楽屋裏で調子を整えているというか、表舞台の現実社会では見えないことになっている霊にこっそり弱った自分をなぐさめてもらっているとか、そんなかんじがして、男の人は私的な領域で女性相手にならそういうことができるし、それをしてもいい、それができてあたりまえ、になっているけれども、女の人になるとどうなのでしょうね。男の人みたいにはそういう私的な領域が与えられないことが多いんじゃないかな。女の人が霊の話や神秘的なことに引かれやすいのは、現実世界の中に男の人が見つけられるような逃げ場がないせいなのかもしれないですよね。
まあでもその一方で男だからこそ降りかかる難儀というのもいくらでもあります。この物語の中だと、カツラギさんはミツイシ一味から見ると巻き込まれてしまった女性でしかないでしょうけれども、関口は既にある意味ターゲットとして認識されています。ミツイシらの思惑から外れた行動を取ると関口はただでは済まないでしょう。
次号では、関口は内閣府副大臣と会うことになりそうです。どうなるんだろう? 続きが待ち遠しい!