『イマーゴ imago 1995年8月臨時増刊号 総特集=オウム真理教の深層 (中沢新一責任編集) 』青土社

オウムについて知りたいならこれはマストでしょう。中沢新一の文章は、地下鉄サリン直後からのオウムフィーバーの最中の宝島30で伝えられた、麻原彰晃についてのうわさ(宝島30では取材してそれがウソだと突き止めていた)をそのままうのみにしているのかと邪推したくなるくだりがあり、ふーん、と思いましたが、それまでに彼が言ってきたことからいかにもそういう風に言いそうなこと言ってるなでもありました。ま、そういうことです。中沢の文章全体は、チベット仏教について彼が考えていることを語っていてべつにおかしなものではありません。
永沢哲のオウム分析は必読です。麻原彰晃には魅力と何がしかの天稟があった。しかし結果的に、現世でそれをうまく活かすことはできなかった、ということになりますか。
一部の女性信者がオウムは男女差別がないからいい、と語っていたように、とくにSNSが発達してからは、現世がオウム化してきたように見えることがあります。麻原が率いたオウムは何かを先駆けて演じ、それをゆるしたバブル景気の終焉とともに消えていったのです。
オウムの真相を暴く、というのなら、あのバブル期の裏面を描かなければならないでしょう。ネアカネクラという今は死語と化したことばが人の評価に便利に使われていたあの頃。
地下鉄サリン事件については、事件の経緯は裁判で明らかにされています。麻原が拘禁反応を見せだしたと伝えられ、それを治してもっと彼に事件について語らせて欲しいと考えたこともありましたが、その後いろいろ読んで、麻原がもう話したくなかったのなら、それはそれでいい、それが彼の意志だったのなら、と思うようになりました。
だから、オウムに関しては、当時の様子を歪曲したり矮小化したりせず伝える、というのをジャーナリストに期待したいです。それはバブル期の実相を後世に伝えることになるでしょう。