『世界』2021 July no.946 千葉紀和「なぜ彼は加害者になったのか 京都アニメーション放火殺人事件(上)」

 

 新聞記者による京アニ放火殺人事件のルポルタージュです。逮捕された青葉真司と目が合った時の描写から始まり、事件当時の青葉の足取りや、取り調べで青葉が語った動機や京都アニメーション側の説明など、順次調べて書かれています。こういうルポルタージュは、記者が取材で得た小さな断片が読む者には大事、そこから得るものが多いです。来月に続きますので、今月号もぜひ読んでみてください。

 

 自分がこのルポを読んで思ったことを書いておきます。

 まず、青葉は「京都アニメーション大賞」に応募した自分の小説が盗作されたことに憤って犯行に及んだと警察に語っていると報じられています。京都アニメーション側は、「応募作には形式上の不備があり、内容を確認する前に一次審査で選外になった」と説明しています。

 そして、ネット上で得た情報から、青葉が盗作されたと疑ったアニメのことがレポートされてて、私はこれ、学園ものアニメでスーパーで特売肉を買う場面ていうのはけっこうレアなのではないかというのがあって、単なる偶然、盗作されたというのは青葉の思い込みでしかないにしても、やっぱり見たら「え?」くらいの反応はあっておかしくないのではないか、というのがあって。くわしくは『世界』を読んでみてください。

 さらにそこから、ちょっと自分のことでよみがえってきた記憶がありました。

 昔、『小説JUNE』(それともそのまえの『JUNE』だったんですかね)という雑誌で、中島梓が「小説道場」というのをやっておりまして、私はまず単行本の中島梓『小説道場』を読んだのですが、これがおもしろくてね。『JUNE』は、いまは一大ジャンルになっているBLものの元祖というか、そういうジャンルの黎明期をこしらえた雑誌だったんでしょうけれども、読者たちが応募してくるBL小説(とりあえずここではそう呼ぶことにします)を、「小説道場」で中島梓がいろいろアドバイスする、道場なので小説書きのけいこをつける、そういう企画だったんですね。それで! 私も2回、応募したことがあるんですよ。

 残念ながら、二回とも、中島梓先生本人から評をもらえるところまでには至りませんでした。しかし、二回ともですね、編集者から評と感想をいただけまして、それ読んで「ああ、ちゃんと読んでくれたんだな……」と、うれしくなったのをすっごく覚えています。自分でとにかく書いてみることで、小説を書く大変さやおもしろさも前よりわかるようになりましたし、なにより「小説道場」を信じて応募して、それを裏切られなかった、というので、『JUNE』という雑誌への信頼と好感が増しました。

 BL小説というジャンル自体に合わないところがあったので、自分には続けられませんでしたが、『JUNE』は映画紹介など、サブカル誌としてもおもしろかったです。

 こういうの、本気で小説家を目指して、文芸誌に投稿したりしている方から見ると、「はぁ?」なことになるのかもしれません。でも、「小説道場」のファンの一人としてそこに参加して、ちゃんと参加させてもらえた、というのが、とてもうれしかったのです。自分はバカにされたりしてないんだ、ふつうに相手にしてもらえてるんだ、仲間に入れてもらえてるんだ、って。雑誌によっては、とくに女子供相手の場合は、これ大事ですよ。そしてこれができる人のはえらい人なんですよ。

 自分をふりかえるとそのころは、雑誌や映画や音楽や、何かそういうものにすがるようなところがあったんだな、と、思います。それ自体がはずかしいことでもあるという自覚も同時にあったのですが、自分にはそれしかなかった。

 そして、『世界』7月号の千葉紀和「なぜ彼は加害者になったのか」を読んで、たぶん自分は『世界』の読者よりは、青葉に近いところにいるんだろうな、という気がしました。運がよかったから、自分の部屋で『世界』読んではてなに感想書いたりしてるけど、それはもうちょっと運がよかっただけ。

 私はこの事件が起きるまで「京都アニメーション」という存在を認識していませんでした。「京アニ」なるものがこの世に存在していることを知らなかった。でも、青葉は京アニのアニメをよく見ていて、「京都アニメーション大賞」に応募するほど好きだったんですよ、思い入れがあったんですよ。だから、裏切られたと感じたときのショックが大きかったのかなって。

 これはもうルポを読んでの私の感想でしかないわけですが、取材された事実を知ることだけではなくて、読んでいろいろなことを思い出さされたり、想像させられたりする、それがこういうルポルタージュを読むおもしろさだったりします。

 

 もちろん、あの犯行は許されるものではありません。亡くなられた被害者の魂が安らかでありますよう、また、療養中の方たちに神のご加護がありますよう、祈ります。