『世界』2024年6月号 松井茂記「岡口基一裁判官の弾劾裁判所罷免判決に寄せて 人を傷つけるような表現は許されないのか」

 

2024年4月3日、弾劾裁判所は、仙台高裁判事兼仙台簡裁判事であった岡口基一裁判官に対し罷免の判決を下した。

 岡口裁判官はXやフェイスブックで積極的に発信することで目立つ存在で、X(旧ツイッター)ではプロフィール画像やヘッダー画像に自分の裸や下着姿の写真を使ったりしていたので、そのことで厳重注意処分を受けたりもしてきていた。

 今回の弾劾裁判はソーシャルメディアでの岡口裁判官の投稿、とくに江戸川区の女子高生強盗殺人事件に関する投稿が最大の問題として取り扱われた。Xでの投稿に遺族から抗議があり、さらに遺族は東京高裁に対して岡口裁判官に対して厳重な処分を要望する旨の要望書を提出する。

 弾劾裁判所は問題とされた岡口裁判官の投稿については、いずれも被害者を傷つける意図は見当たらないと判断、そのほとんどは違法な投稿であったとも認められていない。しかし、犯罪被害者遺族の心情への配慮に欠け、ソーシャルメディアの特性にも無頓着な行いで、裁判官の行いとしては「非行」、それも罷免に値するほど重大な「非行」であると判断した。

 この記事では、投稿に被害者を傷つける意図はなく、違法でもないと判断しておきながら、裁判官によるソーシャルメディアでの発信としては罷免に値する「非行」であるとの判断を下した、これはおかしいのではないかと指摘している。

 これでは裁判官はソーシャルメディアで発信するなといっているのに等しい、表現の自由の基本原理を無視した判決になっているではないか、と。

 くわしくは『世界』6月号で読んでみてください。

 

 感想としては、Xのプロフィールの画像に悪目立ちする自分の写真をあえて使うなど、どうも岡口裁判官は、たんなる裁判官としての発信というより、少なくともX上では、X上でのキャラ発信をしたかった、してたのかなあとも想像して、そして裁判官でなくとも本職をはっきりさせながらX上でやや半私的ともいえるXでしかできない発信をしてらっしゃる方は他にもおられるなあ、というのがあってね。そしてどんなポストであっても受け手の事情によって読んで傷つくというのはあるでしょうから、表現の自由ということになると、そう簡単に裁断できなくなるというのはわかります。

 桐野夏生『日没』(岩波書店)につながってくる出来事が現実に起こったなって。