ケネス・アンガー『ハリウッド・バビロン(1),(2)』リブロポート (翻訳:明石三世)

ハリウッド・バビロン〈1〉

ハリウッド・バビロン〈1〉

ハリウッド・バビロン〈2〉

ハリウッド・バビロン〈2〉

アマゾンの商品説明に「この本は、スキャンダルから時代を読み取る猛毒の書だ。ハリウッド地獄篇」とあり、まあそういう読み物なのよね。
ただし、これを "ハリウッド内幕暴露本" というとびみょーにまちがうことにはなる。
これは、ハリウッドから排出したゴシップ、芸能人スキャンダルという産業廃棄物が大衆にどう消費されていったかを、ゴシップ記事――大衆紙や実話雑誌みたいな、いわゆる低俗読み物媒体の記事ですね――を拾い集め、切り貼りし、ケネス・アンガーがそのハリウッドフェチ魂をこめてつくりあげた一大コラージュというか、いまでいうなら超力作まとめサイト、となるだろう。真偽の織り成すきらめきがもたらす幻覚が、ハリウッドバビロンなのだ。
私もそれなりに子供の頃から映画ファンをやってきてるので、この本を楽しむには、それ以前に映画ファンとして映画ファン向け雑誌や読み物をひととおり以上読み込んだり、同じ穴の狢になるお仲間映画ファンといっしょにド素人相手では通じないおしゃべりができる、その程度の、素養・のようなもの、が必要である、と考える。
だから、そういう素養が欠けた人がこれを読んで、ハリウッドの裏側がわかった! とか口走るのは、見たくないし聞きたくないし、そんなのをうっかり見たり聞いたりしたら、そうじゃなくてなぁ…と言いたくなるのですね(ただし、上のような「素養」があることは、他人に自慢できるようなことではないし、ひょっとしたらないほうが世間的にはいいことになるのかもしれないね、という認識はありますので、えらそうに他人様に「間違いを正す!」というような態度ででるのもはばかられるのですよ……)
この本読むと、件のワインスタインも、ハリウッドバビロンの流儀にのっとって芸能ニュースとして消費されているだけなことは、わかるのではないでしょうか?
好事家向けの一品なので、万人に勧められるわけではないのは承知で、このところのハリウッド#MeToo騒ぎにげんなりしている向きには、なんでげんなりするかこの本読んでみると見えてきて、ちょっとすっきりするかもよ(世の中、変わりまへんなぁ……という脱力感が副作用、になるかな)、と、そっとこっそりすすめてみたい。