接吻

DVDで鑑賞。
テレビで見た殺人犯と獄中結婚する女性の物語。
導入部、音楽と共に殺人犯の動向が描かれる。短いが犯行の異様さが印象づけられる。
続いて、OLの日常。まじめでおとなしく、仕事はよく出来るが、同僚からは内気すぎてつきあいにくいと思われている女性。孤立した状態で過ごす日々。そんなある日、冒頭で描かれた殺人事件の犯人が逮捕される瞬間をテレビで見る。逮捕される男はカメラに向かってふっと笑顔を見せる。OLは、その笑顔を見たときからこの犯人のことが気になりだし、新聞や週刊誌を買い込み殺人犯について調べだす。
歌舞伎でも、花魁が男にちょっと笑顔を見せたために、見た男のほうが相手に対して思いを膨らませるという話があるけれども、この映画のOLも殺人犯に自分が微笑み返されたように感じてしまったようだ。
何も喋ろうとしない殺人犯に国選弁護士は手を焼く。また、殺人犯に異常な関心を示して自分に近づいてきたOLのことも心配する。
この映画、主人公は小池栄子演じるOLだ。彼女は、殺人犯に関心を持つことをきっかけにして、彼女の表情や服装など全体の雰囲気が徐々に変化していく。そして自分の思いを語れるようになる。
彼女は弁護士に向かって「自殺しそうだと思われるってどういうことかわかりますか?」と言う。自分は全然そんな風に思っていないのに、周りの人が勝手にそうだと思い込んで決め付けられる、そして自分はそんな周りの思い込みに反撃することができない、してみたところで相手に通じない。自分の思いだけが無視される。
彼女はそんな自分を重ね合わせられる相手として殺人犯のことを見ている。自分のこんな気持ちが彼になら通じるのではないかと。そして獄中結婚し、二人で自分らを無視し続け、無視したことすら認めようとしなかった世間に立ち向かおうとする。
自分の思いが無視し続けられていたこと、そのことに憤っている自分がここにいること、でもそれが在る筈がないことになっていることへの不満。自分が不満に思っていた、そのことすらなかったことにしてしまう世間への不信。
小池栄子は、そんな気持ちを抱えて生きてきた女性の姿を見事に演じている。小池GJ!な映画だった。