ダブル・ファンタジー:韓国現代美術展

丸亀市猪熊弦一郎現代美術館へ、ダブル・ファンタジー:韓国現代美術展を観に行きました。
美術館に入ると、いきなり野犬が御出迎え。ジ・ヨンホの作品です。タイヤに使うような黒いギザギザの入ったゴムっぽい板を、テープのような線状に切ったもので造形しているのですが、これがほんとうに活き活きしていて良い。黒い線の流れがまるで筋肉そのものの動きを表しているようで、生きた動物の魂の声が聞こえてきそうです。同じ素材と手法で作られた牛の頭もありました。これも、表情があるんですね。夜中にこっそり会いに行くと何か話してくれそうです。
韓国の伝統と現代が軋みあっているような光景を描いた作品が多かった。割れた陶器をつなげてできあがったオブジェは、個人的には苦手な形状なんだけれども、いろいろな陶器がはまっているのが見えるのはおもしろいし、なにか諸星大二郎のマンガで、貧者がぐちゃぐちゃに融合して巨大化して支配階級を襲うマンガがあったけど、あれを思い出したりした。
昔から韓国に伝わる絵の技法を用いて、でも一部、血や性器を赤色で表現してあるのは、ちょっと思春期ぽいかんじがして、グロいけど初々しい印象。血の赤がほんとうに血の色みたいなんだけど、流れ出たばかりの新鮮な血の色なのよね。
別の作家は韓国の昔ながらの絵の描き方で(日本の江戸時代に書かれた地図を思い出させる古風な絵)、そのまま高層ビルが林立する今の韓国の様子を描いていましたが、なにか遠い未来から現代の韓国を覗いているような気分にさせられました。
映像作品もいろいろ。物体を機械にはさんですりつぶすところを逆回しで見せる、その粉末からびょーっと物体が生成されるような映像を観ながらヘッドフォンで音楽を聴けるコーナーがあって、音楽はいろいろ流されているようなのですが、私がヘッドフォンを耳にあてたときは丁度T-REXが終わって白鳥の湖に変わったところで、白鳥の湖を一曲聴きながら、コインが粉まみれで出現してくる様子を見ました。キモイんだけど音楽との絡みでむずがゆいおかしみがあった。
映像では、アン・ジョンジュのDrillというのもおもしろかったです。北朝鮮の兵士が行進の練習をしているところで、一糸乱れぬユートピアの舞台裏、それだけでも吸引力がある物件なのだが、絵と効果音が音楽的にツボにはまる作品になっている。練習している若い兵士の姿が、ああ練習さされてるわ若い子が、と、ツボにはまって伝わってきましたね。
ウォン・ソンウォンの作品も印象に残った。写真を使って作られた世界だが、人家が立ち並ぶ一角、自分の散歩するとき通るところのような光景の中、人影はなし。そのかわり、犬たちがいる。その町の暮らしの息遣いが、様々な犬の姿から伝わってくるようだ。個々の犬を眺めているだけで飽きないし、犬同士でおしゃべりをしているようにも見える。もうひとつの作品は、姉妹が動物やお人形や魚といっしょに戦争ごっこをしているところかな、これも木の上にぬいぐるみが隠れていたり、描かれているものの細部を見ているといろんなことを想像してしまう、そんな絵。ブリューゲルの「ネーデルランドのことわざ」とか、ああいう絵を見るときの楽しさにつながる尽きないおもしろさが隠れている。
他にもいろいろおもしろい作品がありました。展覧会は10月12日まで。